人はなぜ歯周病になってしまうのか?
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23第Ⅰ部 進化医学と利己的遺伝子第2章 我々に刻まれた過去の記憶(進化医学と利己的遺伝子説)コラム 侵襲性歯周炎という“想定外” 若くして早期に歯を失ってしまうタイプの歯周炎は,侵襲性歯周炎と呼ばれている.発症する時期が早く,しかも進行スピードが速い.“早くて速い”のが特徴である.“早い”理由としては,「上顎の1番や下顎の6番のような最初に萌出してくる永久歯に,A.a菌のような細菌が定着するから」というのが限局型用.他の歯に次々と定着していかないのは,獲得免疫がその拡大を阻止しているからとか.全般型用の理由では,その獲得免疫が正常に機能しないために,拡大を許してしまうからとか. では“速い”理由はどうなんだろう? 限局型の場合でも,免疫が獲得されるまでに速く進んでしまうのだろうか? 全般型は防御が弱いから? 実は早い理由も速い理由も,仮説という名の想像であり,証明されているわけではない.細菌の定着にしても,萌出したての歯に定着するという人もいれば,ウイルスの先行感染があって細菌が侵入しやすい道をつくるという人もいる. 細菌と宿主のコンビネーションで侵襲性歯周炎が起こるはずなので,早くて速い感染を成立させるためには,“極めて強い細菌”が関与しているか,“極めて弱い宿主”が関与していると考えるのが妥当である(図1).A.a菌は健常者の歯肉溝でも見つかり,A.a菌が極めて強い細菌とは思えないが,JP2クローンのような特殊なタイプは極めて強い細菌なのかもしれない.しかしながら強力な歯周病菌というのは,歯周病菌のトップスターのような気がするが,よくよく考えてみると実は歯周病菌としては“失格”である.なぜなら,早期に歯を脱落させてしまったら他の宿主に移る前に棲み家を失ってしまうからである.これでは種の保存が図られなくなってしまう.優等生の歯周病菌というのはじわじわ骨を溶かすので,棲み家を確保しながら他の宿主に乗り移るチャンスをうかがうことができる.宿主にとってもゆっくり進んでくれたほうが生殖可能な期間くらいはなんとか咀嚼できる.つまり種の保存を図りやすい.このように,本来歯周病菌と宿主はある程度の妥協点で折り合いをつけているのである. スーパー歯周病菌の可能性が低いとなると,侵襲性歯周炎の原因としては宿主の感染防御にセキュリティホールがあると考えるのが適当かもしれない.まあ,歯周病菌の研究がまだまだ進んでいないということを考慮すれば,結論を出すのは時期尚早だろう.どちらにしても,侵襲性歯周炎という病態は細菌にとっても宿主にとっても“想定外”の事態である.なぜなら,細菌は早いうちに棲み家と伝播機会を失い,宿主は生殖可能期間であるにもかかわらず栄養補給に大切な咀嚼機能を損なわれるのである.どちらにとっても種の保存を脅かされる事態であり,誰も得をしないのである.図1 侵襲性歯周炎の原因? 細菌と宿主の力関係がかなり細菌寄りになっている……はず.極めて強い細菌極めて弱い宿主

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