歯内・歯周・補綴治療の臨床判断
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361.イニシャルトリートメント時に、う蝕や充填物が大きくて全体的な残存歯質量が著しく少なくなる場合の対応法 エックス線写真や口腔内の状況から、冒頭の7つの要素を満たすことが可能と判断した場合は、治療に介入し根管治療を行う。歯質の高さと幅が確保できない場合は、隔壁を作製し無菌的治療を行えるように準備する。その際の歯肉切除などは電気メスまたは炭酸ガスレーザーで行う(症例1)。 患者の同意が得られない場合、または全身疾患により外科処置が行えない場合は、高さを確保せずに治療することになる。歯質の高さが十分に確保できる場合はポストの必要はなく、ポストスペースも必要ない(Chapter 4-2参照)。一方、歯質の高さを確保できない場合はポストスペースを形成する必要があるが、その場合テーパーリーマーのような切削器具で形成すると根管壁を削除してしまい、残存歯質の幅をさらに減らしてしまう結果となる。歯質の厚みを確保できないときは、温めたプラガーでガッタパーチャーを除去するほうが望ましい。 Pereira2)によると、直接法はアンダーカットを削除する必要がなく、感染リスクも少ないため適切である。 またMartínez-Insua3)らによると、残存歯質が少ないときに鋳造コアとファイバーポストを使用してレジンで支台築造した場合、鋳造コアを使用したときのほうが破折抵抗は大きくなるものの、歯根破折など再修復不可能な失敗が多かったとしている。2.歯肉縁下に及ぶう蝕が存在し、挺出か歯冠長延長術が必要な場合の対応法 歯肉縁下に及ぶ歯の欠損が存在する場合、骨縁から欠損部位まで5mm以上距離があり、歯肉が増殖しているのみであれば、歯肉切除などで対応できる。しかし骨縁から欠損部位までの距離がない場合は、挺出させるか歯冠長延長術を行ってからの根管治療となる。 挺出や歯冠長延長術を行うかどうかを決定する際には、歯冠歯根比を考慮に入れる必要がある。挺出もしくは歯冠長延長術、そして根管治療は可能だが、歯冠歯根比が悪くなるようでは予知性は見込めない。その歯が補綴治療上重要な役割を担う場合は、抜歯の適応になる場合もある。 なお、挺出や歯冠長延長術に対する患者の同意が得られない場合や全身疾患がある場合は、抜歯もしくは治療に介入しないという選択肢となる(症例2および症例3)。 biologic width(生物学的幅径) 歯内治療を行う上で、う蝕や過去の充填物によって歯肉縁下の対処を迫られる。歯肉縁下う蝕などによるbiologic widthの不足によって、持続する歯肉炎や不精密な印象採得などが生じ、予知性のよい治療を行うことができない(図C)。biologic widthが確保できない場合にとり得る方法は、矯正的挺出と歯冠長延長術である。 付着レベル 支台歯周囲の歯槽骨が吸収した場合、その歯根を覆う歯根膜表面積も変化するが、歯根形態は円錐状を呈していることから、歯槽骨の高さから予想される以上に歯根膜表面積の減少は著しく、支持面積は低下する。さらに歯根の力学的回転中心も根尖側に移動するため、支台歯の負担能力はさらに弱まる。 補綴治療上、担う役割 包括的な歯科臨床を行う上で、根管治療を行う歯がどのような役割を担うのかは、その歯の予後に大きくかかわってくる。ブリッジの支台歯になるのか、最遠心の歯になるのか、デンチャーの鉤歯になるのか、ガイドを与える歯になるのかなど、その歯に予知性を求められるのか否かを一口腔内単位で判断しなければならない(☞Chapter 1-2参照)。図C biologic width。歯肉溝0.69mm上皮性付着0.97mm結合組織性付着1.07mmbiologic width2.73mm歯根膜骨567

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