生体と調和する歯周組織にやさしい歯冠修復物
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はじめて遊亀裕一歯科技工士に仕事を依頼した時、私が最初に放った言葉を今でも思い出す。「歯周組織を健康に保つ修復物を作ってほしい」「そして、歯科医師が求めているのは、咬合調整の少ない修復物を作ることである」この二つである。模型ばかり見て補綴物を作るのが日常となっている歯科技工士にとって、ほとんど接することのない患者の生の情報。それを集め、それをどのようにラボで生かすのか、新しい課題が突きつけられた瞬間であったと記憶している。まずは、私の申し出を真摯に受け止め、それを実行に移し、その結果、本書を発刊するまでに至った遊亀氏の努力に、感謝と敬意を表したい。 修復物は常に歯周組織と接触している、その美醜は、周囲の歯周組織の存在によって決まってくる。したがって、臨床サイドの治療過程や印象状況、そして、自分が製作した補綴物を装着した経過を知ることもなく過ごすラボの環境は、とても悲しい現実に映る。歯科技工士が患者を中心とした臨床医療チームに入るには、歯科医師や歯科衛生士からの治療経過情報や口腔内写真情報を得なければならない。しかし、歯科技工士が、歯肉の変化やエックス線の観察、ならびに歯周ポケットの話を理解するのは極めて難しいことなのだろう。この問題を克服するために、遊亀氏は、各クライアントの歯科医院から多くのデジタル情報を得るための環境改善を行った。彼の熱意が勝り、「歯肉と調和した補綴物を作ってもらうためにはやむを得ない」と、ほとんどの歯科医院が協力を惜しまなかったことが、彼をさらに器の大きい人物に育てたに違いない。 そして、二つ目に私が彼に求めた絶対的要求は、咬合調整の少ない修復物であった。もし、無調整で修復物を装着することができたならば、その修復物は、理想的な咬合接触状況、美しい審美、そして、最高の機能を保持したまま、長期に患者の人工臓器として活躍するであろう。一方、修復物が見るも無惨な姿になるほどの調整が必要となった場合、歯科医師は何のためにシリコン印象やバイトを精密に採っているのかと疑問になる。歯科技工士は、このような実態をどのような思いで見つめているのであろうか。どんなに歯冠彫刻が上手くても、形のないほど修正された補綴物を見て悲しいと思わないのだろうか。あるいは、製作することで義務を果たしたと考え、次の仕事に自己逃避してしまうのであろうか。私の、当然と言える要求、しかし、実際には難しいこの要求は、彼をますます苦しめることとなった。私は、彼にどんなに泣き言を言われても一歩も引かなかった。彼ならできると思ったからである。狙いは、はじめから見えていた。課題は、咬合器にマウントされた模型のバイトを、どれだけ実際の口腔内の状況に近づけるかであり、遊亀氏にこの問題を解決するよう迫ったのである。結果は言うまでもなく、見事に達成したのである。 本書には、精密模型の取り扱い方、シリコンバイトに一致させるマウンティング後の模型調整テクニックなど、多くの歯科技工士に読んでほしい技術が書かれている。お世辞ではなく、彼の進歩のおかげで、私の歯科医院ではロングスパンの補綴物でさえも本当にわずかな調整ですむようになった。さらには、何年経っても美しく口腔内で輝いている補綴物は患者にとって大切な宝物であり、それをメインテナンスしている歯科衛生士達も誇らしげである。 遊亀氏が誰にでも推薦できる臨床歯科技工士に育ったことは私の自慢でもある。ゆえに、歯科医師にも、歯科衛生士にも、「修復物を装着する限りは、歯科技工士と一緒に仕事をしているのだよ!」と声高に言いたい。 私は、遊亀裕一という忍耐強く努力し続けた歯科技工士と長い間一緒に仕事ができたことを誇りに思う。そして、今後は、自分以上に優れた後輩を育て上げ、次の世代に繋いで行ってくれることを願ってやまない。Japan Denture Association 代表 阿部二郎推薦のことば

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