口腔外科ハンドマニュアル’14
5/8

Chapter-PARADIGM SHIFT OF DENTAL SURGERY FOR 10YEARS LATER13巻頭アトラス 10年先を見据えて 口腔外科医療のパラダイムシフト特集3:埋伏智歯の抜歯術を再考する ─求められる知識とテクニック─加齢変化が抜歯の難度を上げるATLASATLAS 高齢者の増加は,すなわち歯性感染症に対する根治的治療として抜歯を行う機会の増加につながる.抜歯は口腔外科手術の根底をなすものであり,他の手術と同様に,①安全に行うこと,②手際よく行うこと,③良好な治癒に配慮した方法で行うこと,が重要である.健康長寿を自負する高齢者であっても何らかの医学的問題点をもち,加齢変化をきたしていることは事実である.したがって,高齢者では,先の3条件を満たした抜歯を行うために特別な配慮が必要となる.具体的には,全身的な加齢変化として,高齢者の多くは高血圧症をはじめとした医学的な問題点を有している.また耐ストレス能が低下しているため,抜歯の際の全身的なリスクは一般成人より高くなる.さらに局所的な加齢変化として,歯冠は脆弱となり崩壊しやすく,根は肥大や歯槽骨との癒着をきたすため,抜歯操作はより困難となる.そのうえ,加齢変化による免疫機能の低下,歯根膜などの組織再生力の低下,骨の緻密化などは,抜歯創の治癒に直接的な影響を及ぼす. したがって,高齢者では抜歯する部位や状態にかかわらず,生理的な加齢変化そのものが抜歯術の管理,手技,治癒いずれにおいても難度を上げる要因となっていることを自覚して処置に臨まなければならない.医学的な問題点からの難抜歯ATLASATLAS 当科における初診患者約5,000名(平均年齢64.3歳)の既往歴を図1に示す.75%の患者で何らかの全身的な疾患を有し,そのうちの約50%は2つ以上の疾患を有していた.そのなかで65歳以上の高齢者に多かった疾患は高血圧症,糖尿病,虚血性心疾患,脳血管障害であった.大渡ら1によれば,歯科を受診する65歳以上の高齢者において87.5%に何らかの既往症が認められ,そのうちの55%が循環器疾患であること,高齢者の50%は潜在的高血圧であると報告している.埋伏智歯抜歯症例において医学的問題点の保有率は65歳未満で18.4%,65歳以上では94.4%という報告もある2.高齢者では抜歯手技の難易度片倉 朗東京歯科大学オーラルメディシン・口腔外科学講座連絡先:〒272‐8513 千葉県市川市菅野5‐11‐13Problems of Tooth Extraction for ElderlyAkira KatakuraDepartment of Oral Medicine, Oral and Maxillofacial Surgery, Tokyo Dental Collegeaddress:5-11-13, Sugano, Ichikawa-shi, Chiba 272-8513高齢者の難抜歯96

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です