TMD YEARBOOK 2014
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13臨床および研究向けのTMDの診断基準(DC/TMD)別冊the Quintessence 「TMD YEARBOOK 2014」はじめに TMDは概ね5~12%の有病率を示す重大な問題である1.TMDは腰痛に次いで2番目に頻度の高い筋骨格系の問題であり,痛みと苦痛をともなう1.疼痛関連TMDeは,個人の日常活動,心理社会的な機能,生活の質に強く影響する.米国におけるTMDの年間医療費の総額(ただし,画像検査を除く)はこの10年で2倍になり,40億ドルに達している1. TMD患者は,とくに痛みがある場合,しばしば歯科医師を受診する.臨床・研究の両方の場面で身体的な診断をするために,病歴,診察,および画像検査に関して,単純かつ明快で,信頼性と妥当性のあるTMDの診断基準が必要である.さらに,疼痛関連行動と心理社会的機能の生物行動学的評価が必要であり,これによって,とくに慢性疼痛の場合に,患者の疼痛障害をさらに詳細に評価すべきかどうかを判断するための最小限の情報を得ることができる.まとめると,新規2軸TMD診断基準(DC/TMD)は,臨床医が患者を評価する際にエビデンスに基づく基準を提供し,また,受診,紹介および予後に関する情報のコミュニケーションを容易にする2. 研究領域では,明確に定義され臨床的に適切な表現型を利用できるため,結果を臨床に適用しやすくなる.臨床医と研究者が同じ基準,分類および用語を用いると,クリニカルクエスチョンがより容易に適切なリサーチクエスチョンに移行し,また,臨床医が研究結果をより利用しやすくなり,患者のよりよい診断と管理が可能になる. TMDの研究用診断基準(RDC/TMD)は,1992年に公表されて以来,TMD研究の診断基準としてもっとも広く用いられてきた3.RDC/TMDは痛みの生物心理社会的モデル4に基づいており,信頼性がありかつ適切に運用可能な診断基準を用いたⅠ軸身体的評価と,心理社会的状態および疼痛関連障害の評価が可能なⅡ軸評価を有した.RDC/TMDは,身体面の診断を行うと同時に,表現型やその後のTMDの管理に影響する患者の特徴を評価できる.実際に,痛みの期間が長いほど,認知学的,心理社会的および行動学的なリスク因子が増大し,その結果,痛みの感度が上昇し,さらに痛みが遷延化する可能性が増し,標準的な治療が奏効しにくくなる5. RDC/TMDについてその著者らは,将来Ⅰ軸診断アルゴリズムの信頼性と基準の妥当性の正確さを調査する必要があると述べていた.なお,この調査には,信頼できる参照標準i診断を用いた妥当性の検証が含まれる.また,Ⅱ軸インストゥルメントの臨床的な有用性の評価も推奨された.RDC/TMDのⅠ軸身体診断は,エキスパートによるレビューに基づく内容的妥当性jを有し,集団を対象にした疫学テータを用いて検証された6.その後,多施設研究によって,もっとも頻度の高いTMDdに関しては,RDC/TMDは臨床上の使用においては十分な信頼性があることが示された7.個々のRDC/TMDの妥当性については詳細に検討されたが,基準関連妥当性kの評価は最近まで行われなかった8. RDC/TMDのⅡ軸インストゥルメントについては,当時すでに心理学的状態および疼痛関連障害の評価についての信頼性と妥当性に関する良好なエビデンスが存在していた9~13.その後,臨床試験の成果の予測,急性から慢性への進行,実験的な研究条件などの領域において,RDC/TMDの生物行動学的評価の重要性と有用性がさまざまな研究によって示された14~20.一方,疾病の進行の予測に関しては,RDC/TMDの生物行動学的評価は不完全であることが示された21~23.しかし,これまでのところ,ほとんどの研究はⅠ軸診断に集中しているため,日常臨床における生物行動学的評価の有用性については,ある程度しか示されていない24. 本論文の目的は,臨床および研究の両方の場で用いることができるエビデンスに基づく新規のⅠ軸およびⅡ軸DC/TMDを呈示するとともに,その開発の過程を示すことにある.

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