別冊 YEARBOOK 2015 治療計画プランBの歯科臨床
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6別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2015」本書の使い方第2部 「治療計画プランB」治療の実際はこう読む!別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2015」 筆者のクリニックの院訓にはつぎのものがある.・自分の親兄弟や子どもと同じ治療をする・他の歯科医院で治らない治せない方の受け皿になる これはつねに高いレベルの知識と技術を追求し,患者の立場に立った治療計画を立案して,よりよい治療をしようということである. たとえばクラウンが1本脱離して来院された方でも,なぜ脱離したのかを診断し,その原因によっては,「再装着か?」「再製作か?」「全顎を見渡した治療か?」といった選択肢のメリット・デメリットを説明したうえで,治療計画を選択していただくかたちをとっている.もちろんその日に決定が難しい場合は,スタディモデルや口腔内写真など,より理解しやすい資料を準備して次回来院時に再度,解説を行うようにしている.再装着を希望されても,でき得るかぎりの調整を行った後に装着し,今後起こるであろう症状をしっかりと伝えておくようにすることが重要である. こういう基本的な姿勢を崩さずにいると,よりよい治療を希望する患者が自然と増えてくる.全顎を見渡した治療がプランA,再製作がB,再装着がCといえないわけでもないが,患者が選ぶ最終的な治療計画がいずれになろうとも,全顎を念頭においた診査・診断がなされたうえで,プランA・B・Cの治療計画が策定されるのが特徴である.筆者の歯科医院での治療計画選択の割合5咬合崩壊にインプラントも義歯も用いず対処した長期経過症例徳永哲彦福岡県開業 医)フィロソフィア 徳永歯科クリニック連絡先:〒811‐4185 福岡県宗像市赤間駅前1‐2‐1私の診療スタイルと治療計画プラン C64%プラン B28%プラン A8%77p077-088_TQYB15_tokunaga.indd 7714/12/04 13:31別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2015」患者の基本情報性別:男性 年齢:33歳 主訴:むし歯を治したい 出血 排膿 出血+排膿 BOP46.1%根分岐部病変 ▲1度 ▲2度 ▲3度プローピング ~3mm 87.5% 4~6mm 12.5% 7mm~ 0.0%初診時2000.6.08PCR 53.2% 初診時の考察 受診は本人の意思ではないようで,奥さんが無理矢理連れて来たとのことであった.当時,新婚夫婦だったのだが,奥さんによると「主人はまだ一度も歯を見せて笑ったことがないんです.きっと口の中が何かおかしいはずなので診てください」とのこと.本人は本当に寡黙な方で一言も発さない.とりあえず奥さんを待合室に戻してお口の中を拝見すると,写真のような状態であった.「さて,どうしよう,どこから手を付けよう?」「いったいどこで噛んでるんだろう?」「何でこんなふうになってしまったんだろう?」「どうしてここまで放置してたんだろう?」などと「?」がいくつも並んだのを覚えている. 問診で明らかになったのは以下の点であった.・就寝前にはブラッシングしていない.・あまり噛まずに丸呑みしている.・ 歯に関心はないが,見た目は気になっている. 口腔内の視診では,ほとんど歯周病のないう蝕タイプで,これまであまり受診はしていなかったことから,C4の残根が散見された.それにともない咬合高径の低下も明らかであった.まずどの歯が残るのかもしくは残せるのか,どの歯がkey toothなのかという診断を真っ先にしなければならない.それがはっきりしなければ治療計画は立案できない.プラーク動揺度ポケット(出血点)3332222222233333433332323234333322233323333333335333332222233333部位8765432112345678ポケット(出血点)342232222223336534343435343432323243343333334332222222322335動揺度欠プラーク78p077-088_TQYB15_tokunaga.indd 7814/12/04 13:31別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2015」₅咬合崩壊にインプラントも義歯も用いず対処した長期経過症例患者の基本情報性別:男性 年齢:33歳 主訴:むし歯を治したい 出血 排膿 出血+排膿 BOP45.0%根分岐部病変 ▲1度 ▲2度 ▲3度プローピング ~3mm 87.0% 4~6mm 13.0% 7mm~ 0.0%救急処置(or初期治療)終了後 初診時の考察 一般的に初期治療というと歯周初期治療が想像されるが,本症例の初期治療終了とは,前歯部を含めある程度の歯が揃い,何とか臼歯部で食べられる状態を指している.咬合高径が低下していることから,臼歯部の暫間義歯により高径を上げないことには前歯部暫間義歯も入れることができない.しかし,肝心の臼歯部はそのほとんどが残根であったり抜髄が必要な状態で,数回の治療で初期治療を終えることは不可能であった. ここまでに抜歯せざるを得ない歯は抜歯し,Questionable teethについては,できる限り根管治療や挺出などを行い保存に努めるとともに,臼歯部咬合面へのレジン添加による咬合高径の挙上や,咬合面形態の模索を行った. 真面目な性格で,月に4~6回の来院をきちんと守る感じだったが,来る日も来る日も根管治療ということもあってか,ここまでに2度ほど中断もあった.その度に現在の状況,治療の必要性,今後の見込みなどを説明しながら,お口の健康の重要性を説いた.少しずつではあるが,噛み合う場所ができたり前歯が入ったりしはじめると,ようやく笑顔がみられ,治療中断もなくなった.▲₈移植前のデンタルエックス線写真(2001.8.25).▲移植直後の口腔内写真(2001.11.22).2001.9.14PCR 45.8%プラーク動揺度欠欠欠欠ポケット(出血点)322322212223432334333333333334333333533343333333部位8765432112345678ポケット(出血点)333322223336433343434333333433433323222222232224動揺度欠欠欠欠プラーク79p077-088_TQYB15_tokunaga.indd 7914/12/04 13:31別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2015」₅咬合崩壊にインプラントも義歯も用いず対処した長期経過症例図5 ₅部.顎堤吸収が大きく理想的なポンティックができない.図6 上顎より結合組織を移植して歯槽堤増大術を行う.図7 最終補綴.自然感のある状態になっている.図8 上顎のクロスアーチロングブリッジ.長期間仮着してもセメントのウオッシュアウトがみられなくなるまで何度も咬合調整を続ける.図9 ₃の近心にKey&Keywayを設定して2パーツに分けている.図10 セット時のKey&Keyway部.パッシブフィットが求められる.図11 残根となった₇の後ろに水平埋伏智歯が存在.₆欠損により₇は近心に移動している.図12 ₇は残せないが,₈を移植することで義歯やインプラントを回避することができる.その後,₆単冠として補綴する.図13 移植後,補綴された状態.正常な歯根膜腔が観察される.歯根膜が生着すれば,アンキローシスなどの心配はなくなる.幅も高さも増やしたい場合は,上皮付きで結合組織をオンレーグラフトし,ゆるめに縫合するPOINTドナー歯の歯根形態に合わせたレシピエントサイトの抜歯窩形成が重要であるが,試適を繰り返すと歯根膜を傷つけてしまう.術前にイメージづくりを行い,ある程度大胆な形成が必要である.現在ではCBCTを活用して三次元的な計測ができるうえ,3Dプリンタでドナー歯のレプリカを製作しておけば,歯根膜を傷つけることなく何度でも試適できるようになったPOINT83p077-088_TQYB15_tokunaga.indd 8314/12/04 13:31別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2015」図14a,b 歯の植立位置が悪いが,1歯対2歯の咬合でのⅠ級咬合を目指した.側方ガイドはシークエンシャルガイダンスを目標とした(2003.7.3).治療直後術直後の考察 当時の筆者としては,とにかく10年を目標に大きな再治療のないようにできる限りのことをやり終えた感はあった.歯内療法,歯周治療はもちろんのこと,いわゆる咬合崩壊の状態に対して,正しい顎位や高径の決定のためにかなりの時間をかけた.また,重度ブラキシズムを前提とした力のコントロールのために,ガイドの形式への配慮や,補綴の種類,適合性などに細心の注意を払った. そのうえで,夜間のナイトガード装着を必ず守っていただくことが長期維持の条件であることを,何度となく説明してその意思を確認した.元々歯周病に対してのリスクは低いと思われたが,う蝕リスクは非常に高く,プラークコントロールの徹底が重要であった.治療途中にも,中断したり次の来院まで期間が空くとプラークコントロールが悪くなる傾向にあったため,当面は毎月ごとの来院を義務づけて,ブラッシング指導やメインテナンスの重要性について理解いただくようにした.メインテナンスの方針・ナイトガード装着の徹底・毎月リコールの徹底・プラークコントロールの徹底84p077-088_TQYB15_tokunaga.indd 8414/12/04 13:31別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2015」₅咬合崩壊にインプラントも義歯も用いず対処した長期経過症例図15 上下大臼歯部ゴールドの咬合面に顕著な咬耗がみられる.また,同じく金属焼付ポーセレンの咬頭にも平坦化やチッピングが各所にみられる.₅は歯根破折により抜歯し,インプラントに置き換えた(2011.1.29).図16 再度脱離で来院.歯根をよく観察すると,深部にまでクラックが入っていた.図17 抜歯後,ソケットプリザベーションを行う.図18 インプラントによる補綴完了.術後7年6か月術後7年6か月後の考察 5は90°ローテーションをしていたこともあり,側方圧に対して弱かった可能性も考えられるが,この歯の破折は予想外であった.側方運動では確実にディスクルージョンさせているにもかかわらず,大臼歯咬合面メタルの顕著な咬耗がみられることから,ブラキシズム時の咬合が,起床時の運動とは違うことがうかがわれる.ナイトガードも必ず毎日装着しているとはいえないので,このようなことが起こるのかもしれない.85p077-088_TQYB15_tokunaga.indd 8514/12/04 13:31執筆者の診療スタイル,治療方針とともに,実際の治療計画「プランA・B・C」の選択割合が一目瞭然.引き続き,治療の実際を解説します.治療直後の様子と考察,今の時代に不可欠な「メインテナンスの方針」を列挙.術後数年経った際の状態と考察.学ぶべき点が多いはず.治療計画立案にあたり,まずは初診時の資料から分析します.救急処置(初期治療)終了後の状態.178923

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