口腔外科ハンドマニュアル'15
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Chapter-PARADIGM SHIFT OF DENTAL SURGERY FOR 10YEARS LATER11巻頭アトラス 10年先を見据えて 口腔外科医療のパラダイムシフト特集1:超高齢社会に対応する歯科・口腔外科医療への提言─口腔の健康が健康寿命を延ばす─ 今回与えられたテーマは,「口腔機能の維持・再建と長寿との関係そしてその根拠」というものであるが,その直接の答えは後述することとして,まず初めに何故そのような問いがわれわれの領域に起こったのかについて記したいと思う. しばらく前から,医学と医療の世界の中で,臓器別医療への批判が高まっていた.そしてそれは,近代科学への批判とある種共通するものがあった.それは,近代科学が細分化することで発展してきたが,しかしそれが人類の幸福につながるのかという問いかけであった.つまり,「科学はいったいどのような方向をめざしているのかが見えない」ということへの大きな疑問であった,と言ってよいであろう. ここで言われる科学の細分化とは,分析的手法のことだと言っても大きな間違いはないと思う.たとえば,それはこの世界を構成している物質を分子から原子,そして素粒子へと分けていく物理学に代表される思考方法のことである. そうであるならば,近代科学と同一歩調で歩いてきた近代医学・医療への批判も同様の意味を含んでいると考えねばならない.このときの細分化とは,人間の身体を,文字どおり腑分けして,臓器に分けて分化していった結果,それが医療の分野で臓器別医療とよばれるものとなり,そのことが,人間という存在を,全体から診る視点が希薄になったことへの批判であった. この2つの批判が同じであるのは,前述したように,近代科学と近代医学の発達が同じものであったからだ.つまり,医学は科学の一分野として発達してきた歴史をもっているということである. いささか,関係のない話を続けているように思われるが,筆者の言いたいことは,科学も医学も,その進歩が人類の幸福につながるという考え方を中心に歩いてきたのだが,それを進歩させた方法が逆に大久保満男1/深井穫博21 公益社団法人日本歯科医師会会長 連絡先:〒102‐0073 東京都千代田区九段下4‐1‐202 公益社団法人日本歯科医師会理事,深井保健科学研究所 連絡先:〒341‐0003 埼玉県三郷市彦成3‐86※所属は本稿執筆時点のものです.Mitsuo Okubo1, Kakuhiro Fukai21 President of Japan Dental Association address : 4-1-20, Kudan-shita, Chiyoda-ku, Tokyo 102-00732 Director of Japan Dental Association, Fukai Institute of Health Science address : 3-86, Hikonari, Misato-city, Saitama 341-0003Maintenance and Recovery of Oral Function Contribute to the Longevity : Its Scientific Evidence and the Mission of Dentistry口腔機能の維持・再建が長生きにつながるその根拠と歯科の果たすべき使命なぜ,われわれは新たなパラダイムを必要とするのか11

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