口腔外科ハンドマニュアル'15
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Chapter-PARADIGM SHIFT OF DENTAL SURGERY FOR 10YEARS LATER口腔機能の維持・再建が長生きにつながる11策決定者の中でも認識されるようになってきた. しかも,今世紀に入ってから次々と報告されるようになってきた歯・口腔の健康と全身の健康との関連を示す研究成果は,コホート研究,メタ・アナリシス,あるいは観察研究で得られたデータを傾向得点法(プロペンシティスコア解析)で交絡因子を調整し,対象を割り付けて因果関係を推測するなど,科学的根拠のレベル(質)が高いものが多い. 医療の実践でも健康施策の決定においても,科学的根拠とそのレベルが求められる時代である.そして,超高齢社会における健康寿命の延伸という国の施策に,歯科医療・口腔保健の役割を明確に位置づけ,いっそう人々の健康増進に寄与していくには,質の高い科学的根拠と実践例の蓄積が必要である. 健康な長寿社会を現実的なものとするための具体的な対策には,①寿命の延伸と早世予防(主な死因となる疾患の予防),②要介護状態の予防,③老化による生活機能低下の防止,④成人期をはじめとして生涯にわたる健康増進の4点がある2. この中で疾病対策としては,死亡と要介護状態の原因となる主な疾患への対応が重要である.日本人の主な死亡原因は,がん,心血管疾患,肺炎,脳血管疾患であり,この4疾患で,全死亡の約70%を占める.また,要介護状態を引き起こす原因となっている上位の疾患は,脳血管疾患,認知症,転倒・骨折でありその割合は全原因の約60%である.これらの疾患の発症予防と重症化防止は,自立期間の延長(健康寿命延伸)に直接つながる. また,これらの疾患はいずれも,高齢者になるほど罹患しやすい.高齢者において生活機能の低下が進めば,最初に移動能力が落ち,つぎに排泄能力と摂食能力が落ちていく.口腔という器官の加齢による老化を口腔機能の側面から整理する一方,ライフコースアプローチによって,生涯にわたる健康増進に果たす歯・口腔の健康について,科学的根拠を蓄積していく必要がある3.歯・口腔と健康長寿との関連とその科学的根拠(図1)ATLAS 歯・口腔が全身の健康に対して影響するメカニズ口腔衛生う蝕歯周病歯数その他咬合咀嚼・嚥下構音・発話審美性口腔機能(咀嚼・嚥下機能等)の低下防止・回復 歯の喪失防止・咬合の保持口腔疾患(う蝕・歯周病等)口腔衛生・生活習慣(喫煙,食習慣等)歯・口腔の健康死亡率の減少・生活習慣病(NCDs)・その他の全身疾患の予防・重症化防止NCDsリスクファクター:高血圧,肥満,喫煙,運動,食習慣要介護の原因への対処脳卒中認知症転倒関節疾患その他健康寿命の延伸寿命ADL社会参加健康な加齢・老化QOL社会的決定要因社会的決定要因健康増進・加齢変化の制御医療提供・疾病対策口腔保健歯科医療(在宅医療含む)運動栄養・食生活・コミュニケーション機能・休養(ストレス軽減)がん心臓血管疾患脳血管疾患慢性呼吸器疾患糖尿病その他図1 歯・口腔の健康と健康寿命延伸との関連(文献2,4より引用改変).13

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