包括歯科臨床II 顎口腔機能の診断と回復
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1486全身のなかの下顎位Chapter6-1全身姿勢のなかの下顎位下顎位の異常は,様々な顎口腔機能異常に広いかかわりをもつ.下顎位の議論に先立って,下顎位という概念が主に補綴歯科学において扱われてきたために,生理的な下顎の状態を理解したり,病態を診査するうえで,やや不都合が生じるということに注意を払っておきたい.下顎位とは,上顎に対する下顎の位置関係を表わす用語として使われているが,体幹に対して首から頭蓋までの位置がずれて,上下の咬合に異常がある状況を想定していただきたい.歯科的な介入をするまでは,歯列がずれた状態で「かみにくい」という問題はあるものの全身症状を自覚することはなかった人が,上下歯列の嵌合関係を改善したことをきっかけに体調不良を訴えることがあるのである.このようなとき,もし「上顎の偏位した症例」であれば,「上顎に対する下顎の位置」という概念が,かえって病態を見誤らせる.下顎にかかわる筋のうち,閉口筋群以外のほとんどの筋は舌骨を介して体幹につながっており,頭蓋は頭蓋で姿勢を維持するたくさんの筋群によって体幹につながっているので(Fig. 6-1),下からみていくと体幹につながる下顎の位置があって,その下顎が咬頭嵌合を介して上顎すなわち頭蓋につながっているという見方もできるのである.生理的あるいは病的な下顎位を理解するためには,動かない頭蓋に対する下顎位ではなく,全頭長筋頭最長筋胸鎖乳突筋頭板状筋後頭横筋僧帽筋Fig. 6-1a Posseltは『Physiology of occlusion and Rehabilitation』の冒頭に頭部の主要な姿勢維持筋群(脊柱上の頭部運動筋群)を図示している1).Fig. 6-2(Case 6D同一症例)叢生の矯正治療後,舌の痛みなどの違和感を感じるようになり,長年にわたって違和感が解消されることがなく,体調不良を訴えて来院した.上顎の偏位と変形をもたらした態癖を放置したまま矯正治療を行ったために体幹に対する下顎の偏位がもたらされたものと考えられた(診断の経緯はCase 6D参照).a:舌の不快症状を訴えた初診時,口腔内の上下の歯列の正中はほぼ合っているが,CT(マーキュリーTM,日立社)を用いて頭蓋底の水平断を得たところ,舌骨は下顎の右寄りにあり,舌骨と頸椎の位置関係(下顎骨オトガイ舌筋の棘-舌骨の中央-後鼻棘-第一頸椎前結節-後結節を結ぶライン)は大きく捻れていた.b:初診時のRP(リラックスポジション).筋肉をリラックスさせると下顎は右に現れる.CT像で右寄りにある舌骨の位置と符合する.上顎偏位症例では,RPで顔面の歪みが強くなっているように見えるが,喉と下顎の位置関係にずれはなくなる.ab主訴:舌痛症5年後の確定診断:上顎骨-下顎骨-舌骨の位置異常による舌痛症初診(ICP)初診(RP)

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