包括歯科臨床II 顎口腔機能の診断と回復
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149身姿勢のなかの下顎位すなわち咬頭嵌合位(ICP)という見方をすべきである.上顎の顕著な偏位は多くはないが,偏位した上顎をそのままにして,それを基準に咬合を再構成すると,重大な問題を引き起こす可能性がある.特に全顎の咬合の再構成や矯正歯科治療などによって新たに下顎を位置づけ直すことをきっかけに重大な症状を引き起こす可能性がある(Fig. 6-2).筆者らは,このような上顎偏位で矯正治療後に重い症状を訴えて,来院された何例かの治療経験から,下顎位を全身姿勢の一部として理解すべきだと考えるようになった.1)姿勢の変化下顎位の異常が全身症状を引き起こすだけでなく,下顎の偏位に全身姿勢が大きく影響されることがある.特に生活習慣によってAngle Class IIになっている症例では,顎位の改善に伴って全身姿勢が改善する(Case 6A, 6B).このため,下顎の偏位が全身姿勢に影響するという仮説はかなり真実味を帯びてきた.このなかには下顎の後退に伴って気道が狭窄し,気道容積を確保するために無意識に首を前傾させてストレートネックになり,さらにそれが頭頸部の筋の過緊張につながっていくケースが含まれる.このようなケースでは睡眠時無呼吸を伴うので,成長発育にも悪影響があるものと推測される(Case 6B).このような臨床経験から,下顎位が適切な状態にあるか否かの判断材料のひとつとして,全身姿勢を評価することにしている.下顎位の変化とともに全身姿勢を観察することにより,好ましい変化が起きているか,好ましくない変化が起きているかの判断材料にすることができる(Case 6A,Fig. 6-3~6-6).Fig. 6-1b 舌骨上筋群および舌骨下筋群.開口にかかわる筋のほとんどは,舌骨につながり,舌骨につながる舌骨下筋群は胸骨,肩甲骨などに停止する.cdc:態癖の改善とともに改良アムステルダム型スプリント(上顎)とティーアライナー(下顎)などの装置による上顎と下顎の歯列弓の矯正によってRPをICPとした2年2カ月後.舌痛は6カ月で消失し,約1年で体調は回復した.d:5年7カ月後.顔面の歪みは回復し,CTを用いて頭蓋底の水平断を得たところ,下顎骨オトガイ舌筋の棘-舌骨の中央-後鼻棘-第一頸椎前結節-後結節がほぼ一直線上に並んでいた.体調は完全に回復した.2年2カ月後(口腔内写真2年1カ月後)5年7カ月後本症例は患者の了解を得て顔貌写真を掲載している.

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