オーラル・インプラント・リハビリテーション・シリーズ Vol.2
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4.2 ファイナルレストレーション装着後の咀嚼・嚥下と食事4.2.1ファイナルレストレーション装着後の咀嚼と食事 総義歯などを装着してきた患者は垂直顎間距離が短縮し、収縮力を発揮できない。ファイナルレストレーションの装置により、患者本人が持っていたある一定の筋長の再現によって収縮力は増大する。その間に顔貌の変化が起き、口輪筋も大・小頬骨筋による保持が可能となり、口元のゆがみも少なくなり、食事がしやすくなる。 ファイナルレストレーションはプロビジョナルレストレーションの情報を元に製作したものであるから、今まで以上に咀嚼力は回復するのであるが、義歯の使用が長期間にわたった患者は、すでに顎関節に器質的なダメージを受けている場合があるため、硬い食物を摂ると、顎が左右に変位しやすい。この時、顎関節周囲の痛み、開口障害、偏頭痛などが出現することがある。 同時に、ファイナルレストレーションのみでは、咬合のすべてが改善しにくいことを患者に理解させ、筋機能訓練により長年の間に退化した筋の活性化を促し、よりゆっくりと咀嚼させて口腔機能全体の力を増加させる努力が必要であることを十分に説明する。 噛みしめた時に記録される力が咬合力で、咬合面の単位面積当たりに加わる力を咬合圧という。また、食品を咀嚼した時の力が咀嚼力で、咀嚼食品を介して咬合面の単位面積当たりに加わる力を咀嚼圧という。通常、咬合に異常が認められない人の各歯の咬合力の大きさの序列は平均時に、第一大臼歯>第二大臼歯>第三大臼歯>第二小臼歯>第一小臼歯>犬歯>中切歯>側切歯である。 咬合力は前歯部から臼歯部に移るにしたがって増大する。 しかし、咬合面は前歯の切端から臼歯の咬合面に変わるので、対合歯と接触する面積も大きくなり、単位(咬合)面積当たりの咬合圧は前歯部のほうが大きくなる。 加齢的変化では通常、咬合圧は15~20歳で最大となり、それ以降は低下する。 上下の歯を噛みしめた時と、厚みのある食物を噛みしめた時では、咬合圧に差が生じる。上下顎の歯が接触している時に最大の咬合圧が発揮できるとは限らない。安静位での状態で、手指の筋力は最大になるともいわれている。歯を喪失すると、安静位がどの位置かわかりにくい。この場合、握力が低下するとも考えられる1)。 噛むときの筋肉は閉口筋群が最大の力が発揮できる下顎の位置、すなわち固有の本来の筋長の長さの保持で決まる。切歯間距離が10~15mmの時に最大の咬合圧が発揮できると言われている。 しかし、それよりも開口量を小さくすると咬合圧は減少し、それ以上開口量を大きくすると、緩やかに減少するとも言われている。一般に、咬合位から、顎間距離を大きくするにつれて咬合圧は徐々に増加して最大値に達し、その後、顎間距離が小さい時には閉口筋はテコの機能を発揮することができず、最大に開口すると閉口筋の筋線維が過剰に引き延ばされて収縮する力が減少するためである。 すなわち、筋にはその筋が最大の収縮力を発揮させることができる筋線維の伸展度合があるということである。 食品を摂取時には、食品の硬軟、粘性の度合いにより咀嚼力を分別する必要があるが、インプラントを通して人工的に作りだした垂直顎間距離であるため、この力の伸展具合に慣れるためには時間を要するのである。新井聖範、安岡大志、村松弘康、庄野太一郎68Oral Implant Rehabilitation Series4章 ファイナルレストレーション装着後の口腔周囲筋ケアの実践

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