YEARBOOK 2016
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本書の使い方第2部:ペリオ,エンド(炎症のコントロール)編,第3部:欠損補綴・修復(力のコントロール)編はこう読む!別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2016」 当院の診療目標は「健康で快適な口腔が維持されること」である.しかし初診時,健康な口腔を維持することを目的に来院される患者は稀である.多くの患者は何らかの治療が必要である.検査後,診断と治療方針の説明は歯科医師が行う.う蝕や歯周病の場合,「突然,むし歯の穴が開いたり,歯肉に炎症が起こり,歯を支えている骨が溶けたわけではありません.むし歯や歯周病のリスクがある人が,一定期間経過してこのような状態になったのです.治療後もリスクを放置すれば再発します.そこで,治療により回復した状態を維持するためには,リスクを評価し,コントロールしなければなりません.また,リスクコントロールが適切に行われているかどうかを確認するには,定期的に来院していただく必要があります.そのため,私たちは患者さんと長くお付き合いしたいと考えています」と説明している. う蝕や歯周病の治療後,再評価して口腔機能回復治療を行う.その後メインテナンスまたはSPTに図1a 診療室は大久保通りに面したビルの1階である.図1b 診療室内観.図1c コンサルテーションを行っているところ.患者可撤式ブリッジを選択して初診から25年,長期経過からみえてくるもの景山正登東京都開業 景山歯科医院連絡先:〒164‐0011 東京都中野区中央2‐59‐11 ヤマキビル1F1.私の診療スタイルと治療計画114p114-125_TQYB16_kageyama.indd 11415/12/03 11:52執筆者の診療室の外観,内観,間取りなどから,治療環境,治療スタイルを知ることができます.別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2016」図4a~i 外冠は患者可撤式ブリッジで,切縁と咬合面をメタルで被覆.₄,₄歯頸部間距離は12mm,咬合様式は犬歯誘導,顎位はCR.内冠周囲に炎症はみられない.患者がプラークを除去できるように染めだして確認.図4j 1992年4月治療終了後SPT移行時再評価.現存歯は19歯である.PCRは7.9%,プロービング値は3mm以下でBOPは4.4%になった.動揺度も収束してきた.図4k エックス線写真.₃₅,₅₁₅が生活歯である.全顎的に歯槽硬線は明瞭化し,₅,₅₅の垂直的骨吸収も改善してきている.図4a図4b図4c図4d図4e図4f図4g図4h図4i歯周精密検査表 検査日 1992.04.28    PCR 7.9%■ 出血 BOP 4.4%プロービング 〜3mm 100% 4〜6mm 0.0% 7mm〜 0.0% プラーク動揺度欠欠欠00000欠欠0欠0欠1欠(出血点)ポケット(出血点)312313313212212213213313312313323212312213212213部 位8765432112345678(出血点)ポケット(出血点)222213213213212212212213212322222312212213212212212212213312322322動揺度欠0欠0000000001欠欠欠プラーク治療終了後SPT移行時の考察 歯周治療と根管治療に9か月費やした.歯周外科治療を行わずに改善できた.現存歯は19歯になった.再評価後,プロビジョナルレストレーションで咬合高径や顎位の確認とプラークコントロールのしやすい形態を模索する予定であったが,破損や脱離を繰り返し,なかなか決定できなかった.これを踏まえ,歯列・咬合の保持,動揺歯の固定および補綴物装着後のトラブルを想定し,内・外冠により二次固定をはかることにした.さらに,清掃性を考慮して,患者可撤式ブリッジを選択した.咬合支持は7か所になったが,小臼歯の支持は初診と同じである. 今後SPTでは顎位や咬合様式を確認するとともに,クレンチングやグラインディングへの対応と動揺の増加,そして歯根破折に注意する必要がある.歯周炎の進行や再発を防止するためにセルフケアの確認,そしてプロフェッショナルケアを適切に行う.根面う蝕予防のためにフッ化物を積極的に使用する.来院間隔は4か月の予定である.6.治療終了後SPT移行時の状態(1992年4月:50歳)120p114-125_TQYB16_kageyama.indd 12015/12/03 11:52治療終了時の様子と考察.今後のメインテナンスを含めた経過観察への要点も解説します.別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2016」図2a図2b図2c図2d図2e図2f 初診時歯周組織検査.PCRは57.5%で,プロービング値は13歯が4mm以上を示し,BOPは65.8%.動揺度は₅にⅡ度がみられ,6歯がⅠ度であった.図2g 初診時エックス線写真.歯槽骨吸収は全顎的に歯根長の1/3以内であるが,₅,₅₅に垂直的骨吸収がみられる.12歯の根尖に透過像が認められる.図2a~e 現存する20歯のうち19歯が治療されている.辺縁歯肉に発赤,腫脹が認められる.上顎に正中離開がみられる.■ 出血 BOP 65.8%プロービング 〜3mm 74.2% 4〜6mm 24.2% 7mm〜 1.7% 歯周精密検査表 検査日 1989.10.09    PCR 57.5%プラーク動揺度欠欠欠000000欠0欠1欠1欠(出血点)ポケット(出血点)323423323323323613314328526223333323423544544523358436部 位8765432112345678(出血点)ポケット(出血点)434536424323324313312212313323533323323335323424423323213322223522動揺度欠1欠1001000012欠欠欠プラーク初診時の状態初診時の考察口腔内所見:現存歯数  54321 1 3 5 77 54321 1234520歯 咬合支持数8,Eichnerの分類B2,咬合三角第2エリア,Cummerの分類パターン1.DMFTは28で,19歯が治療されている.補綴物はマージン不適合である.全顎にわたり舌口蓋側辺縁歯肉に発赤,腫脹が認められる.PCRは57.5%で,プラークの付着は補綴物マージン部および隣接面に認められた.13歯が4mm以上のプロービング値を示し,BOPは65.8%であった.₅にⅡ度の動揺度がみられた.₁₁₂の切端に咬耗,₃継続歯の前装の脱離,₄₅の咬合面にう蝕が認められた.₆ブリッジは口腔内写真撮影前に脱離した.エックス線所見:歯槽骨吸収は全顎的に歯根長の1/3以内であるが,₅,₅₅に垂直的骨吸収がみられ,歯槽頂縁部の歯槽硬線が不明瞭であった.₅₄₃₂₁₁,₄₃₂₁₂₃の根尖に透過像が認められる.₆ブリッジはエックス線写真撮影直後に脱離した.診断:広汎型中等度~限局性重度慢性歯周炎(₅),二次性咬合性外傷(₅,₅₅),慢性根尖性歯周炎(₃₂₁₁,₇₄₃₂₁₂₃),急性根尖性歯周炎(₅₄),う蝕症第Ⅲ度処置歯(₄),う蝕症第Ⅱ度(₅).116p114-125_TQYB16_kageyama.indd 11615/12/03 11:52合わせて,初診時の資料からの分析も,治療計画立案に加味します.別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2016」図6a~d 2000年12月.上顎外冠が食事中に外れ,食べづらいとのこと.外冠が弛み,咬合面に摩耗が認められる.₃の外冠が少し浮いている.₅₅のマージン部の金属がめくれている.図6e~h 2001年3月.上顎外冠の再製.咬合高径,顎位,咬合様式は前回と同様である.できるだけ軽くするために,金属部分を減らした.₅₅頬側に歯肉退縮が認められる.図6i 2000年12月.下顎外冠は再製せず,そのまま使用する.図6a図6b図6c図6degifhSPT8年目の考察 2000年12月のSPT来院時,歯周組織や内冠に問題はみられないが,上顎外冠が食事中に外れて食べにくいと訴えられた.日中,仕事が忙しく食いしばることが多く,とくに右側犬歯や小臼歯部で食いしばっており,顎が疲れるそうである.これまでも上顎の外冠が緩み,外冠の調整や咬合調整を行ってきたが,今回は金属疲労もあり,マージン部がめくれているところもでてきた.咬合面の摩耗も著しいので,下顎外冠はそのままで,上顎外冠を作り直すことにした.2001年3月に再製したが,金属部分をできるだけ少なくして軽くなるようにした.₄,₄歯頸部間距離は前回と同じ12mmで,咬合様式は犬歯誘導,顎位はCRで製作した.そして,日中は安静位をとるようにし,就寝時は必ずナイトガードを装着するように指導し,SPT来院ごとに確認することにした. トラブルを想定して可撤式補綴物にしたが,SPT8年目で再製になるとは,壊れるスピードが速い.今後もトラブルに遭遇する機会は高いと思われる.8.SPT8年目(2000年12月~2001年3月:59歳)122p114-125_TQYB16_kageyama.indd 12215/12/03 11:52さらに数年が経過.長期経過観察から生まれた考察.別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2016」患者可撤式ブリッジを選択して移行し,う蝕や歯周病のリスクコントロールと,咬合や補綴物などの確認を行う.健康で快適な口腔を維持するためには,プロフェッショナルケアとともに,セルフケアが重要であることも強調している.患者データ年齢:48歳,性別:女性,初診:1989年10月主訴右上奥歯が痛い.しっかり咬みたいので全体的に治療をしてほしい.人となり明るく温厚で,意見をはっきりいってくださる.既往歴10年以上前に全顎的に治療した.2年前に₄が痛くなり,自宅近くの歯科医院で歯髄処置を受けたが,それ以来歯科医院を受診したことがない.数週間前より右上延長ブリッジが動揺し始め,前歯でしか食事ができずに不自由を感じていたところ,昨日より₅₄に疼痛を感じたために来院.全身的既往歴:特記事項なし.喫煙歴:なし.歯科への関心度・協力度今までの受診状況や口腔内状況からみて高いとはいえない.治療に対する希望今までは痛みが取れたら,仕事が忙しいので,とりあえずはよいと考えていた.しかし,つねに使用する右上のブリッジが動揺し,前歯で咀嚼するようになり,とても咬みづらいので,しっかり咬めるように治療してほしいとのこと.さらに,その状態が長く続くことを希望している.その他,特記事項教師という仕事柄,生徒と接するときにストレスを感じることが多く,思わず食いしばり,歯が折れた経験がある.また,就寝時に歯ぎしりしていることをご主人から指摘されている.著者データ臨床経験年数:開業後31年チェア数:4台スタッフの人数:歯科医師(常勤):2名,(非常勤):1名,歯科衛生士:3名,歯科技工士:1名2.患者の概要と初診時の状態115p114-125_TQYB16_kageyama.indd 11515/12/03 11:52患者データからバックグラウンド,人となりを知り,治療計画の参考とします.別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2016」患者可撤式ブリッジを選択して図5a 1997年3月.₄が腫れたとのことで緊急来院.エックス線で根周囲に暈状の透過像が認められた.図5b ₄の内冠はコアごと簡単に外れ,頬口蓋方向に破折線が認められた.頬側に瘻孔がみられる.図5c 同日抜歯し,スーパーボンドで内冠とともに破折部を固定して再植した.図5d 再植後10日目.瘻孔は消失している.内冠は再植時,全周を削合研磨した.Ⅰ度の動揺がある.図5e 1997年8月.5か月後,₄は自然脱落した.図5f 1997年12月,SPT5年目正面観.₄自然脱落から4か月.外冠に変化はみられない.下顎前歯唇側に歯肉退縮がみられる.図5g 1997年12月,SPT5年目右側方面観.₄部は即重レジンで埋めてある.外冠は緩みもなく着脱に問題もみられない.図5h 1997年12月SPT5年目上顎咬合面観.上顎は7歯になった.₄部頬側は陥凹している.内冠周囲に炎症はみられない.図5i 1997年12月,SPT5年目再評価.現存歯は18になった.PCRは18.5%,プロービング値は3mm以下,BOPは4.4%で,動揺度も増加していない.図5j エックス線写真.全顎的に歯槽硬線は明瞭で,骨も平坦化してきている.₄抜歯窩に硬化性骨炎様の不透過像がみられる.下顎にも同様の所見が認められる.SPT5年目の考察 1997年3月,₄が破折した.コアごと内冠が外れると頬口蓋方向に破折線が認められた.エックス線で暈状の透過像がみられたので根尖性破折1であると思われる.原因はコアの長さ,太さ,あるいは2根管にコアを挿入したので,コアの方向性の違いによるかもしれない.さらに,クレンチングやグラインディングなどの異常習癖とともに二次固定により受圧条件が改善されたことも関係していると考えられる2.現存歯は18歯になり,咬合支持も6か所に減じ,Eichnerの分類B2に変わりはないが,小臼歯の支持が3か所から2か所になった.今後,他の歯にも破折が生じる可能性がある.しかし1997年12月のSPT来院時,外冠の緩みはみられず,咀嚼にも不自由しおらず,患者による着脱も以前と変化がないとのことである.歯周組織も安定しており,動揺度にも問題はみられないので,SPTで様子をみていくことにした.7.SPT5年目(1997年3月~12月:56歳)■ 出血 BOP 4.4%歯周精密検査表 検査日 1997.12.19    PCR 18.5%プロービング 〜3mm 100% 4〜6mm 0.0% 7mm〜 0.0% プラーク動揺度欠欠欠1欠000欠欠0欠1欠0欠(出血点)ポケット(出血点)222212212212212213212222222212212212313213部 位8765432112345678(出血点)ポケット(出血点)212212212212212212212212212212212222212212212212212212212212212222動揺度欠0欠0000000000欠欠欠プラーク121p114-125_TQYB16_kageyama.indd 12115/12/03 11:52治療終了後数年経った際の状態とその考察.ここからが本誌の真骨頂.

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