YEARBOOK 2016
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※景山論文をモデルに解説.論文によって書式は多少異なります.別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2016」患者可撤式ブリッジを選択して1)歯周基本治療 ①口腔衛生指導,スケーリング・ルートプレーニング ②根管治療 ③暫間補綴物で咬合の確認2)再評価3)歯周外科治療 :プロービング値が4mm以上でBOP(+)の部位4)再評価5)口腔機能回復治療:プロビジョナルレストレーションの活用 補綴治療:上顎:Key & Keywayを使用したクロスアーチスプリント 下顎:臼歯部ブリッジ 前歯部・小臼歯単冠 6)再評価7)メインテナンス/SPT  5432117  432 1234432112 6⑤④③②①①2③4⑤6⑦⑦6⑤       ④⑤6 咬合支持は8か所認められるが,大臼歯は咬合していない.エックス線写真上で₅,₅₅に垂直的骨吸収がみられ,動揺も認められ,二次性咬合性外傷を生じていた.そして,下顎前歯部切端および₄₅の咬合面にファセットがみられた.さらに,上顎前歯に正中離開が生じている.クレンチングやグラインディングなどの外傷性咬合もみられる.以上の所見から臼歯部咬合崩壊と判断した. 歯周炎に関しては,多数の歯が補綴されているが,マージン不適合でプラークリテンションファクターになり,プラークによる炎症が起きている.しかし,全身疾患および喫煙経験がなく,プロービング値は4~5mmが大半を占め,歯槽骨吸収も全顎的に歯 歯周治療終了時,PCR20%以下,プロービング値3~4mm以内,BOP16%以下,動揺度の収束を歯周治療の目標にしている.歯周基本治療時,マージン不適合な補綴物は除去し,SRPと感染根管治療を行い,暫間補綴物により咬合の確認を行う.歯周基本治療後の再評価でプロービング値が4mm以上でBOP(+)の部位は歯周外科治療を行う予定である.その後の再評価で改善が認められたならば,口腔機能回復治療を行う.補綴設計は,上顎は₆~₇までのkey & keywayを用いたクロスアーチスプリ根長の1/3以内であるので,歯周炎進行のリスクは低い.DMFTが28歯でう蝕リスクは高い.根尖病変が11歯に,歯根膜腔の拡大が1歯に認められ,感染根管治療の予後は不確実であり,治療時の穿孔や将来の破折のリスクが考えられる.ント,下顎は₄と前歯の単冠,右側臼歯部のブリッジ,左側臼歯₆の延長ブリッジと考え,プロビジョナルレストレーションで試行錯誤し,問題がなければ補綴物を製作する予定である.その後,メインテナンスまたはSPTに移行し,歯周病の再発や咬合の確認のほかに,根面およびマージン下のう蝕にも注意する必要がある.外傷性咬合に対しては,就寝時オクルーザルスプリントを装着し,日中は安静位を心掛けてもらう.変更点:₁抜歯,₇抜髄,歯周外科治療は行わなかった.補綴治療時,上下顎とも内冠を装着し,外冠は患者可徹式ブリッジで二次固定をはかることにした.そしてSPTに移行した.本症例の炎症と力のリスク・臼歯部咬合崩壊にともなう上顎前歯の正中離開・クレンチングやグラインディングなどの外傷性咬合・小臼歯の咬合性外傷・マージン不適合によるプラークの停滞・DMFTが28歯と,う蝕リスクは高い・ 感染根管治療の予後不確実性,治療時の穿孔や治療後の歯の破折3.初診時で感じる本症例の「炎症と力」の分析(リスク)4.私が考えた治療計画117p114-125_TQYB16_kageyama.indd 11715/12/03 11:52さらに,本症例の「炎症と力」のリスクを分析し,治療計画を立案します.別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2016」患者可撤式ブリッジを選択して図7a~g 2008年12月上顎外冠の再製から8年.咬合高径,顎位,咬合様式に変化はみられない.多くの歯に歯根露出が認められ,₅頬側の歯肉退縮は進行している.₂₁唇側,₅₄頬側歯根面に初期う蝕がみられる.図7h 2008年12月,SPT16年目再評価.現存歯は18歯である.PCRは18.6%,プロービング値は₅₅₇に4mmがみられる以外,3mm以下で,BOPは5.6%である.10歯がⅠ度の動揺度を示している.図7i エックス線写真.全顎的に歯槽硬線は認められるが,₅の歯根膜腔が拡大している.図7a図7b図7c図7d図7e図7f図7g歯周精密検査表 検査日 2008.12.25    PCR 18.6%■ 出血 BOP 5.6%プロービング 〜3mm 95.4% 4〜6mm 4.6% 7mm〜 0.0% プラーク動揺度欠欠PO1PO001POPO0PO1PO0欠(出血点)ポケット(出血点)323313222222312334224334323223323323324334部 位8765432112345678(出血点)ポケット(出血点)222212212212212212212212212212212232112213212213212212212212212211動揺度欠1PO1101101001PO欠欠プラークSPT16年目の考察 上顎外冠を再製してから8年経過したが,咬合高径,顎位,咬合様式に変化はみられない.外冠のレジンがマージン付近で少しはがれている箇所がある.₅₅₇のプロービング値が4mmでそれ以外は3mm以下であり,BOPは5.6%と今のところ歯周組織は健康を維持している.しかし,Ⅰ度の動揺度が10歯にみられるようになり,それも右側に多く,₅には歯根膜腔の拡大も認められるので,右咬みが多くなり,力の影響がでてきていると思われる.日中の食いしばりと,就寝時の歯ぎしりに注意が必要である.2002年3月で高校を退職され,甘いものを食べる機会が増えたとのことで,₂₁唇側,₅₄頬側歯根面に初期う蝕が認められる.初期う蝕部のプラークコントロールとセルフケアならびにプロフェッショナルケアでフッ化物の使用を徹底する.主食は1日3回取っているので,間食を2回までにするように指示した.う蝕が進行するかどうか経過をみることも,今後のSPTの課題となった.9.SPT16年目(2008年12月:67歳)123p114-125_TQYB16_kageyama.indd 12315/12/03 11:52圧巻の長期経過観察.長年の試行錯誤から学べることは多いはず.別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2016」患者可撤式ブリッジを選択して図3h 1990年12月仮着正面観.上顎前歯部がたびたび破損するので,切端をメタルで覆うプロビジョナルレストレーションを製作.₄,₄歯頸部間距離は初診時と同じ12mmとした.図3i 1990年12月上顎咬合面観.₆~₇までのクロスアーチスプリント.前歯部はレジン前装の連結冠にし,₄と₃部でkey & keywayにした.図3j 1990年12月下顎咬合面観.₇~₆までのクロスアーチスプリント.前歯部はレジン前装の連結冠にし,₃と₄部でkey & keywayにした.左側ブリッジは歯ぎしりさせると外れるのでジョイント部をスーパーボンドで固定.図3m 1991年4月正面観.今までの経緯から,内冠を使用した患者可撤式ブリッジを製作することにした.そのため,顎位や清掃性の確認のため,再度レジンによるクロスアーチスプリントを製作.₄,₄歯頸部間距離は12mm.図3n 1991年4月上顎咬合面観.₆~₇までのクロスアーチスプリント.すべてレジンで連結し,₆の延長部は破折を防ぐように補強してある.図3o 1991年4月下顎咬合面観.さらに動揺が収束するように, key & keywayではなく,レジンで連結した₇~₆までのクロスアーチスプリント.延長している₆は破損しないように補強している.図3k 6日後正面観.切端で咬合し,₃₂₁前装部脱離.右上ブリッジも脱離.顎間距離は変化していない.図3l 2か月半後.下顎を前方運動させた状態.外側翼突筋,とくに右側に疼痛あり.左下ブリッジの動揺が増加.前歯前装部も脱離を繰り返している.日中の安静位と,就寝時のナイトガード装着を再度指示.この後,改善してきた.kl図3p 1991年9月上顎咬合面観.8支台歯のうち,有髄歯は₃₅の2歯である.歯頸部に少し炎症がみられる.プラークコントロールの強化をはかる.図3q 1991年9月下顎咬合面観.11支台歯のうち,有髄歯は₅₁₅の3歯である.印象採得のため,歯頸部の炎症をコントロールする必要がある.pq119p114-125_TQYB16_kageyama.indd 11915/12/03 11:52別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2016」患者可撤式ブリッジを選択して参考文献1. 飯島国好.歯根破折─臨床的対応─.東京:医歯薬出版,1994,p38‐43.2. 宮地建夫.なぜ10歯前後の欠損歯列に注目すべきなのか? In:歯界展望別冊/10歯前後欠損症例の「読み」と「打つ手」.鷹岡竜一,倉嶋敏明,松田光正,宮地建夫・編.東京:医歯薬出版,2013,p7‐16.3. 宮地建夫.長期経過から振り返る「咬合保全」.北海道歯科医師会誌 2015;70:1‐8.4. 小林賢一,竹内周平,井口寛弘.歯根破折の原因と予防─補綴の立場から.歯界展望2014;124(2):217‐237. 本症例は上顎前歯部の保護と咬合支持確立のために,二次固定として患者可撤式ブリッジを選択した3.SPT移行時(1992年4月) とSPT22年目(2014年10月)を比較すると,Eichnerの分類B2,咬合三角第2エリア,Cummerの分類パターン1と同じであり,上顎前歯部は保護されている.咬合関係も維持されているが,SPT8年目(2001年3月)に上顎外冠が緩くなり再製した.このトラブルは想定内である.本症例のように,定期的にSPTに来院されるコンプライアンスの高い患者の場合,全身状況や生活習慣に変化がなければ,歯周炎やう蝕のリスクはコントロールできることが多い.しかし,現存歯は19歯から17歯になり,咬合支持数は7(小臼歯支持3か所)から5(小臼歯支持2か所)に減った.歯根破折が原因である.歯根破折には残存歯質量やポストの状態,咬合などが関係しているといわれている4が,予測はつかず解決策も見出せず抜歯に至ることが多い.歯髄を保存することの重要性を実感している. 今回,ブラキシズムなどの異常習癖も強い影響を及ぼすことが確認できた.しかし,力の要素はとらえにくく,とらえられたとしてもコントロールが難しく対応に苦慮しているのが現状である. 以上から現在では,炎症と力に配慮して確実に治療を行うとともに,う蝕や歯周病のリスクを評価してコントロールすることが歯の保存,ひいては歯列や咬合の維持に必要であると考えている.◆歯列・咬合の保持,動揺歯の固定および補綴物装着後のトラブルの対応として二次固定は有効である.清掃性の向上にもつながる.◆メインテナンスやSPTを継続して,はじめて炎症や力がコントロールされているかどうかがわかる.◆コンプライアンスが高い患者ほど炎症のコントロールは良好な場合が多いが,力の問題はとらえにくく,コントロールしづらい.◆う蝕や歯周病のリスク評価およびリスクコントロールが歯の保存,歯列や咬合の維持に不可欠である.「炎症と力のコントロール」-私は今,こう考えている!まとめ125p114-125_TQYB16_kageyama.indd 12515/12/03 11:52「炎症と力のコントロール」——私は今,こう考えている!別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2016」図3a 1990年6月.₁の根管処置を行っていたが,瘻孔が消失せずに抜歯.図3b 1990年7月.プロビジョナルレストレーション仮着前の歯周基本治療後再評価.PCRは13.2%,プロービング値は₇の4mm以外は3mm以下になった.しかし,動揺度は収束しておらず,BOPも20.2%なので,今後もケアを継続していく.図3c 同日のエックス線写真.₃₅₇,₅₁₅以外感染根管処置を行い築造している.₇はこの後歯髄炎継発のため,抜髄.図3d 1990年7月正面観.プロビジョナルレストレーション仮着.₄,₄歯頸部間距離は13mm.初診時から1mm挙上.下顎前歯の暫間補綴物が脱離を繰り返したので,連結冠にした.図3e 1990年7月上顎咬合面観.₆~₇までのクロスアーチスプリント.犬歯から臼歯をメタルオクルーザル.₃と₂部のkey & keywayを口腔内で即重により固定.図3f 1990年7月下顎咬合面観.前歯部はレジン連結冠,右側臼歯部ブリッジ,左側臼歯₆の延長ブリッジはメタルオクルーザルにした.歯ぎしりさせると,左側ブリッジが外れるので前歯とスーパーボンドで固定.図3g 13日後正面観.₂口蓋側は破損,₃口蓋側は摩耗し,下顎は右側に偏位している.₄,₄歯頸部間距離は12mmになっていた.右下ブリッジもセメントがウォッシュしていた.defgプラーク動揺度欠欠欠00001欠欠0欠1欠0欠(出血点)ポケット(出血点)212212212212212212213224212212212213211212213223部 位8765432112345678(出血点)ポケット(出血点)212212212212212212212212212212222212212212323212212212212212212322動揺度欠0欠0001111002欠欠欠プラーク歯周精密検査表    患者氏名  北村 秀子    カルテNO. 1128    検査日 1990.07.12 PCR 13.2%■ 出血 BOP 20.2%プロービング 〜3mm 99.1% 4〜6mm 0.9% 7mm〜 0.0% プロビジョナルレストレーションを活用し,炎症と力のコントロールをはかる.5.炎症と力のリスクを踏まえた治療の実際118p114-125_TQYB16_kageyama.indd 11815/12/03 11:52炎症と力のリスクを踏まえた治療の実際について,POINTを提示しながら解説します.別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2016」図8a~h 2014年10月,SPT22年目.外冠は安定しており,着脱も問題はない.しかし,ここ2~3年右下内冠にトラブルが続発している.₂₁唇側歯根面の初期う蝕は進行していない.内冠周囲の歯肉に炎症はみられない.図8i 2014年10月,SPT22年目再評価.現存歯は17歯である.PCRは10.8%,プロービング値は破折している₄以外,3~4mm以内で,BOPは4.9%である.8歯がⅠ度の動揺を示し,その多くは右側にみられた.図8j エックス線写真(2013年11月撮影).全顎的に歯槽硬線は認められ,骨も平坦化している.₃が破折しているのがわかる.このあと抜歯.2012年7月に₅が歯冠破折して修理したが,根尖に透過像が認められる.図8a図8b図8c図8d図8e図8f図8g図8h最新の経過 SPT22年目の考察 外冠の咬合高径や顎位に変化はみられず安定しており,着脱にも問題がない.しかし,2013年11月撮影のエックス線写真でわかるように₃が歯根破折していたので抜歯した.₄も今回,破折が確認された.現存歯数は17歯であるが,₄を抜歯すると16歯になる.咬合支持は5で小臼歯の支持は変わらない.Eichnerの分類もB2のままである.しかし,2012年7月に₅が歯冠破折を起こし,修理したが根尖病変がみられる.ここ2~3年右側,とくに右下の歯にトラブルが集中している.さらに,8歯がⅠ度の動揺を示し,6歯が右側である.右咬みしているとのことなので,左右均等に使うように指示している.クレンチングも気づくと行っているそうである.夜間はナイトガードを使用しているが,安静位を維持することは難しい.歯周組織は₄中央部に6mmのプロービング値がみられる以外3~4mmで維持され,BOP4.9%,PCR10.8%と安定している.₂₁唇側歯根面の初期う蝕の進行は停止している.10.最新の経過 SPT22年目(2014年10月:73歳)歯周精密検査表 検査日 2014.10.27    PCR 10.8%■ 出血 BOP 4.9%プロービング 〜3mm 94.1% 4〜6mm 5.9% 7mm〜 0.0% プラーク動揺度欠欠欠1欠001欠欠0欠0欠0欠(出血点)ポケット(出血点)224312223222313324224223323213323212323324部 位8765432112345678(出血点)ポケット(出血点)322222262212212212212212212312332222363212212212212212213222動揺度欠0欠12欠1110001欠欠欠プラーク124p114-125_TQYB16_kageyama.indd 12415/12/03 11:52

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