増補改訂版 歯科医院の感染管理 常識非常識
1/6

QUESTION42ANSWER いけません。使用後の器材は、まず洗浄によって付着物を洗い流し、つぎに薬液消毒または高圧蒸気滅菌などを実施してから再使用します。 医療の現場では、高水準消毒薬であるグルタラール、フタラール、過酢酸、中水準消毒薬である次亜塩素酸ナトリウム、ポビドンヨード、エタノール、イソプロパノール、低水準消毒薬であるクロルヘキシジングルコン酸塩、ベンザルコニウム塩化物、塩酸アルキルジアミノエチルグリシンなどが器材用消毒薬として広く使用されています。 これら消毒薬の基本的薬理作用は、微生物の体壁などを構成するタンパク質を変性させること、微生物の生命活動に必須な酵素タンパク質や核酸を変性(失活)させることなどによります。つまり、すべての消毒薬は、程度の差はあっても「タンパク質を必ず変性、かつ、固着させる」作用があります。 したがって、血液(主成分はヘモグロビン、アルブミン、グロブリンなどのタンパク質)が付着した器材を洗浄しないで消毒薬に浸漬した場合には、消毒薬の薬理作用を受けて変性した血液(タンパク質)が器材に付着してしまいます。このことは、器材の性能を損なうだけでなく、消毒(薬)効果を減少させてしまいます。さらに、付着物の存在により高圧蒸気滅菌における蒸気や酸化エチレンガスの浸透が不均一(不十分)となり、滅菌の質が保証できません。 図30は、ステンレス板にヘモグロビン、アルブミン、フィブリンを塗布した洗浄評価用インジケータ(TOSIⓇ、Pereg社)を1%に希釈した酵素洗剤、アルカリ性洗剤に10および20分間浸漬し、すすぎ、乾燥の後にアミドブラック10Bという付着物の判定液(62頁参照)にて残存タンパク質を染色した成績です。両洗剤ともに洗浄力が優秀であり、20分間の浸漬後にタンパク質が染色されていないことがわかります(塗布タンパク質が分解、除去されていました)。 つぎに、あらかじめグルタラール(3.0%)、フタラール(0.55%)、過酢酸(0.02%)に室温で20分間処理(浸漬)したTOSIⓇを、図30と同様に両洗剤液中に10および20分間浸漬し、アミドブラック10Bにて残存タンパク質を染色した成績を図31に示しています。本来は、20分間の浸漬でTOSIⓇ塗布タンパク質を分解・除去することが可能な両洗剤ですが、消毒薬処理によって変性した塗布物(タンパク質)の大部分が分解されずに残存しています。紙数の都合で省略しますが、この現象は中水準消毒薬処理、低水準消毒薬処理でも同様です7、8。 つまり、血液の付着した使用後の器材は、まず洗浄によって付着物を分解・除去し、つぎに消毒または滅菌操作を実施しなければなりません。洗浄しなくても薬液消毒をしていればよいの?18

元のページ 

page 1

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です