オーラル・インプラント・リハビリテーション・シリーズ Vol.3
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1.3 オーラル・フレイルの予防とインプラント治療の役割1.3.1オーラル・フレイル期におけるインプラント治療の目的 これまでインプラント治療は、審美性の回復と欠損部の補綴による咀嚼機能回復をおもな目的としてきた。しかしVol.1および2で示してきたように、超高齢社会を迎えた今、インプラント埋入後、プロビジョナルレストレーション装着直後から口腔周囲筋の活性化のため、積極的にMFT(oral myofunctional therapy:口腔筋機能療法)を行う。このトレーニングにより咀嚼筋・表情筋・舌の活性化、唾液分泌量の増加をインプラント治療の目的とするようになってきている。また、さらにオーラル・フレイルの観点からすると、インプラント治療の最終的な目的は、単なる咀嚼機能回復のみならず、栄養状態改善、代謝性疾患予防・改善、体組成改善へと抗加齢や健康づくりの効果を求めるものに進化しなければならない。 もちろん、義歯によっても咀嚼機能回復は可能ではあるが、不適合義歯が装着されている場合、咀嚼筋および顔面表情筋の可及的な回復には適切なインプラント治療がすぐれていると思われる。長年にわたり食事を円滑にするのが困難で、サルコペニア、ひいてはロコモティブシンドロームに至る可能性が高かった人々が、インプラント埋入後即時補綴治療により短期間でADLが向上、また、摂食障害が回復し、会話・食事を円滑に行えることで周囲の人々と食事などで会合し、地域社会への参加を促すきっかけとなる。 ただ、インプラントは義歯と比較して高額であり、効果は期待できるがすべての患者に施術できるわけではない。しかし、認知症や寝たきり状態の解決策の1つの方法としてわれわれ歯科医師は認識するべきである。 「柏スタディ」で示したオーラル・フレイル予防の原点である「社会参加」「栄養」「身体活動」の3つの柱があるが、適切な義歯やインプラント埋入後即時補綴治療により3つの柱すべてが解消され、健康寿命の延伸につながるのである(図1.3.1)1)。1.3.2オーラル・フレイルの予防にともなう誤嚥防止とインプラント治療の重要性 オーラル・フレイルの特徴に、歯科口腔機能における軽微な衰え(滑舌の低下、食べこぼし、わずかのむせ、噛めない食品が増えるなど)の症状がある。これらの症状は、「老年症候群の予防」頃の年齢になって多くみられる症状である。これらの症状が起きた場合や不適合義歯を口腔内に装着していたり、歯が喪失した状態で放置していたりしたとしても、それがどのような問題となり身体に悪影響を及ぼすのかに関する知識が患者にはなく、それを指導する歯科医師の側にも、口腔内の機能低下が段階的に虚弱になる第一歩であるという認識が欠如しているというのが現実である しかし、2015年春から日本歯科医師会は、「8020運動」脇田雅文、川口和子、鈴木仙一24Oral Implant Rehabilitation Series1章 オーラル・フレイルの予防とインプラント治療の関係

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