エビデンスに基づいた ペリオドンタルプラスティックサージェリー
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40ペリオドンタルプラスティックサージェリーの基本テクニック3章TECHNICALILLUSTRATIONフラップデザインとハンドリングThe Design and Handling of Full and Partial Thickness Flaps3章 11. 全層弁と部分層弁 ペリオドンタルプラスティックサージェリー(periodontal plastic surgery:PPS)では、ときに結合組織移植を併用した形で、全層または部分層のフラップが多用される。全層弁とは弁に骨膜を含む状態で骨面から剥離したフラップを指し、骨膜上を走行する血管からの血液供給が豊富であるため、フラップの壊死が起こりにくいとされている(図3-1-1)。一方、部分層弁とは骨膜を骨面上に残した状態で剥離されるフラップのことを指し、それ自体には栄養血管が少ない。よって血液供給は、骨面に残された骨膜上の血管から得られるため、フラップの取り扱いによっては壊死などのトラブルをまねく恐れがある(図3-1-2)。しかし、部分層弁の場合は、骨膜を固定源とした骨膜縫合を利用することで、術者の意図した位置にフラップを固定することが可能となるため、シャローサルカスの獲得を目的とした歯肉弁根尖側移動術や、遊離歯肉移植術の受容床の形成など、幅広い術式で応用されている。また近年では、全層弁と部分層弁それぞれの利点を根面被覆術に応用した、減張切開をともなう歯肉弁歯冠側移動術(coronally avdanced ap:CAF)などが紹介されている。2. 基本的なフラップデザイン フラップについては外形や移動させる方向、弁の種類などでさまざまな分類が存在しており、どのようなフラップデザインを用いるにしても、もっとも重要なことは、術後フラップ内に十分な血液供給が確保されているということである(表3-1-1)。したがって適切な切開のデザインを設定する際には、口腔内の血管の走行や密度を熟知している必要があり、形成されたフラップおよび移植された組織に対して、速やかに血管新生が獲得されることが条件となる1)。 口腔粘膜の血管(主に動脈)の分布や走行パターンを十分に考慮した理想的なフラップデザインや、減張切開のデザインの原則は以下のようになる2)。①歯の周囲には歯肉溝内切開を用いて、それ以外の歯肉溝付近の切開は避ける②欠損部には歯槽頂切開を用いる③減張切開(縦切開)が必要な場合は可能な限り短く④唇側の根の最大膨隆部への切開は避ける。この部分は歯肉が薄く非常に繊細である⑤フラップは可及的に繊細に扱い、血流の阻害を最小限にする さらに、「フラップデザインを計画するうえでもっとも重要な事項は、フラップの基部からの血液供給を維持することである」という考えが、長年臨床的な推奨事項として優先されてきた。そのため、フラップ内にできるだけ多くの栄養血管を取りこめるように基部の幅広いフラップデザインを採用すること、またフラップの長さと幅の割合は2:1を決して超えないこと、という原則が長期にわたり守られてきたのである3)。 しかしながら、近年、生物学的プロセスに対するより深い洞察から、上記原則はあまりに単純であるという指摘もある。よって、最新の解剖学的な知識と原則を把握したうえで、つねに手術に最適なフラップデザインを術前に計画することが手術を成功に導く重要なキーポイントであるといえる。

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