歯科衛生士のための臨床歯周病学のエビデンス活用BOOK
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臨床実感を決定的にした「実験的歯肉炎」 20世紀初頭においても、プラークや歯石を取れば歯周疾患が改善することを経験上知っていた臨床医は少なくなかったと思われます。実際に、18世紀頃から現代のスケーラーのような、歯石をとる道具があったことがわかっていますし、今でいう症例報告レベルの文献も残されています。しかし、実際にこのことを科学的に分析した文献が学術雑誌に本格的に掲載され始めたのは1950年代に入ってからです。 まず、口腔衛生状態と歯周炎の関係は主に疫学的な観察研究で報告されました。たとえば、Scherp(1964)は、疫学調査のデータをレビューし、歯周疾患の90%は口腔衛生と年齢で説明できると唱えました1)。つまり、ある集団に対して検診を行ったところ、口腔衛生状態が悪い人に歯周病が多かったということです。このような疫学的な手法も根拠の1つになりえますが、この頃に行われた主な観察研究は、ある一時点での疾患と原因因子の関係しか見ない「断面調査」でした。これらから得られた結果を決定づけるためには、ある一時点だけでなく、経過を追って疾患と原因因子との関係を観察する必要があります。さらに、実験的になんらかの介入をすることも有効です。 そこで、1960年代にデンマークの研究機関で行われたのが「実験的歯肉炎」という研究です。1「歯周病の原因はプラーク」これはどのように証明されたか?今回のトピックは、「細菌性プラーク」が歯周疾患の原因という基本中の基本の根拠です。この根拠は、「実験的歯肉炎」という研究で明らかにされました。Evidence 健康な歯肉を有するヒトにブラッシングなどの口腔衛生を中止させ、その後の過程における微生物叢と歯肉の変化を観察すること。研究目的 平均年齢23歳の健常者12名。研究対象 被験者全員に対し、日常的に行っていたブラッシングなどの口腔衛生をあきらかな歯肉炎の徴候が発現するまで中止させた。その後、炎症が発現した直後から朝晩研究方法2回ずつ口腔衛生を行うように指導した。実験期間中、プラーク指数、歯肉炎指数、および細菌学的観察のためのプラークのサンプリングが繰り返し行われた。Loe H, Theilade E, Hensen SB. Experimental gingivitis in man. J Periodontol 1965;36(5-6):177-189.ヒトにおける実験的歯肉炎今回の教材18

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