SAFE Trublesshooting Guide Volume2 患者由来性合併症編
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巻頭特別企画インプラント治療における医科的患者由来合併症ないことがわかるが、その背景にあるのは「易感染性と易重症化」である。3-2 インプラント周囲炎から、術後に化膿性骨髄炎を併発した2型糖尿病症例 次の症例は71歳女性。左人工股関節再置換術のため、整形外科に入院した。糖尿病治療中であったため、術前に糖尿病内科へ紹介があった。筆者がその際の外来主治医であったが、経口血糖降下薬1剤の内服によりHbA1c 5.8%とコントロール良好であったため、手術にあたって血糖値はまったく問題がない旨を返信した。 しかし、このとき筆者を含め整形外科・麻酔科の医師・看護師は、全員が「60歳時に下顎インプラント埋入」という既往歴を見逃していた。 手術そのものは成功したにもかかわらず、術後より発熱が続き、血糖値も上昇。抗生物質投与とインスリン治療が行われたが、炎症が治まることはなく、手術2週間後には化膿性骨髄炎による敗血症に至った(図3-a)。ICUにおける集中治療により、かろうじて救命しえたが、なぜこのような事態に至っ 入院後の胸部X線写真にて両側性の肺浸潤影、胸部CT画像にて多数の空洞性病変を認めたことから肺化膿症と診断した(図1)。呼吸不全をきたしていたため、集中治療室で人工呼吸管理、抗生物質投与、インスリン静注による血糖管理などを行い、奇跡的に一命を取り留めた。 血糖コントロール不良であったとはいえ、29歳の女性が致死的な多発性肺化膿症を併発することは通常では考えられない。何らかの感染源があったはずであるが、それは本症例が回復してICUを退室した後に判明した。患者は長らく歯科通院をしておらず、喫煙者であることに加えて、う蝕、歯周病を放置していたのである(図2)。 口腔内に存在する嫌気性菌が血行性に両肺へ播種し、多発性肺膿瘍を形成したのではないかと考えられた。論文検索を行うと、同様の肺化膿症症例が国内外で報告されている。 本症例は、29歳という若い患者であっても悪条件が重なれば、軽微な口腔感染症から命取りになるほどの重症感染症を併発しえることを教えている。糖尿病患者の場合、う蝕、歯周病といえども看過でき図2 本症例で放置されていたう蝕と歯周病。(野村利夫ら.原発性肺膿瘍72症例の臨床的検討 とくに起炎菌の薬剤感受性および体位ドレナージの効果を中心として.最新医学 1974;29(2): 317-324.)図3-a~c 本症例の術後経過と半年後に撤去された下顎インプラント。(a)第一回左人工股関節再置換手術(2008年12月11日)。(b)(c)下顎インプラント周囲炎により撤去(2009年6月10日)。bc化膿性骨髄炎/敗血症HbA1c 5.8%3022.5157.5001234567891011121314151617181920CRP(mg/dl)インスリン(単位/日)a口腔所見(総歯数28本) 喪失歯数:0本 歯周炎数:16本 う蝕歯数 : 9本 処置歯数:15本肺化膿症の発症要因1.誤嚥2.血行性播種3.隣接感染臓器からの波及空洞像別の頻度1個 68% 右側 59%2個 19% 左側 38%多発 13% 両側 3%SAFE(Sharing All Failed Experiences) Troubleshooting Guide Volume2 患者由来性合併症編20

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