生体にやさしい戦略的矯正歯科治療歯科矯正用アンカースクリューの応用
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 近年、歯科臨床において、各専門分野の発展は目覚ましいものがある。矯正分野においても、クラウン・ブリッジやインプラント補綴、あるいは審美修復等とのInterdisciplinary Approachが頻繁に行われるようになってきている。そしてまた、多くの素晴らしい治療結果が、誌上や講演会で紹介されている。しかし一方、術直後(保定期間を含)ではなく、長期間に渡って観察してくると、その結果が思わしくなく、矯正治療はもちろんのこと、補綴治療の再介入が困難になる症例が、よく見受けられるのが現実である。特に多数の補綴歯がある症例では、その結果が顕著である。このことを解決するためには、矯正治療を特に成人矯正において咬合治療の一つと捉えるべきであり、補綴治療と同様に良好な機能回復を常に考えて総合診断し、治療にあたることが重要になってくる。顎口腔系の機能には、咀嚼・嚥下・発語等があり、この機能を良好に回復するにあたって、歯の位置はもちろんのこと、歯の形態(補綴物形態を含)を考えながら矯正治療を行っていくことが、長期に渡って顎口腔系の健康を維持していくKEYとなる。また、矯正治療を子供の頃から開始する時は、成長発育を考え、また歯列不正に骨格的な問題が大きく関与している症例では、成人になってから長期的に機能と審美性が良好に維持できるように、より慎重に総合診断・治療計画を立案する必要がある。歯科治療の術式そのものは、生体に対し何らかの侵襲があるものである。本書のSECTION Ⅰ、Ⅱでは、「生体にやさしい戦略的臨床」ということを念頭においたメカニズムを紹介している。また、SECTION Ⅲの「歯科矯正用アンカースクリューを用いた矯正治療」では、かつて抜歯症例と考えられていたものが、IPRとアンカースクリューを応用して非抜歯に、また外科症例と判断されていたものが、IPRとアンカースクリューによって、外科矯正を回避することができるようになってきた。そして、上下顎外科が必要であった症例が片顎で対応できる症例も増えてきている。このことは、まさしく生体にやさしい戦略的矯正治療といえる。矯正治療後、永く良好な機能を維持させ、咬合を安定させるには治療ゴールを明確にイメージすることが重要である。このイメージは、歯の位置と歯列弓の形態、そして歯の形態(補綴物形態を含)の重要性を理解することで初めて可能になると考えている。 本書で述べられていることを、日常臨床で役に立ててもらえれば、我々著者にとってこの上ない幸せである。 最後に本書を上梓するにあたり、構想から執筆そして監修等、全ての面で全力を注いでこられたPaik,Cheol-Ho先生に、感謝の意を表したいと思う。 2017年3月                 本多正明刊行によせて

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