歯科医院で患者さんにしっかり説明できる本
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炎症について触れたついでに、体内の免疫システムのはたらきと、歯科衛生士の皆さんにはおなじみのBoP(プロービング時の出血)についても理解を深めておきましょう。歯科医療従事者として頭の隅に入れておくとよいでしょう。 プラークが原因となって、歯肉の充血(発赤)、腫れ(浮腫)が起こることはChapter.1(P、9~18)で述べたとおりです。血液中の液成分が血管の外に出る現象(滲出)に続いて、細胞成分の滲出が起こります。細胞成分は、好中球、マクロファージ、リンパ球、形質細胞の順番に炎症局所に現れます。これらの細胞は生体を守るために働きます。免疫システムが動き出す 最初に炎症の現場に出てくる好中球は、プラーク内の細菌を貪食します。貪食は生体防衛のための反応のひとつです。 その次に現れるマクロファージは細菌を貪食するだけでなく、細菌という「敵」が侵入してきたことを「免疫システム」に連絡する重要な役目(抗原提示)をもっています。敵が侵入したという情報を受けて、Tリンパ球が司令塔となり、免疫システムが動き始めます。 続いてBリンパ球が増殖し、形質細胞に変化(分化)して免疫グロブリン(抗体)をつくります。この免疫グロブリンが敵(細菌)を一気に排除するのです。もろ刃の剣のサイトカイン 免疫システムでは、敵を排除する反応が起こると同時に、マクロファージやリンパ球がサイトカインという免疫調節物質を産生します。 さて、このサイトカインですが、困ったことに骨吸収などで歯周組織を破壊するのです。つまり、生体防御のために現れたマクロファージやリンパ球により生体を守るためにつくられたサイトカインが、結果的に歯槽骨を吸収し、歯周組織を破壊してしまうのです。 「生体を防御するはずのマクロファージやリンパ球が、どうして歯周組織を破壊してしまうのか?」と疑問に思う人もいるかもしれません。生体からみると、細菌の排除と歯槽骨の吸収は矛盾しているように見えます。細菌の排除は生体にとってプラスだけれど、歯槽骨の吸収はマイナスではないか、と考えますよね。健康な組織も犠牲になる いつまでたってもプラークが除去されないと、歯肉の局所では免疫反応に参加するマクロファージやリンパ球がどんどん増えていきます。免疫グロブリン(抗体)をつくる形質細胞もますます増えていきます。しかしもともと歯肉は、このような炎症反応や免疫反応が起こることを想定してつくられておらず、予備の“空き地”といえるものはないのです。 炎症が慢性化して、免疫反応が広い範囲に及ぶと、細菌をやっつけるために現れた大量のマクロファージやリンパ球、形質細胞のためのスペースが必要になります。このスペース確保のために、マクロファージやリンパ球がサイトカインをつくって、健康な骨組織や結合組織を破壊するのです。歯肉での緊急事態に対処するために歯槽骨を吸収し、結合組織を破壊しているのです。 プラークが完全に除去されると、大量のマクロファージやリンパ球、形質細胞は消えて、炎症とそれにともなう免疫反応は治まります。そうしてから、歯周組織では復興のための建築(つまり再生)が始まります。知っておこう、免疫の話発展講座26

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