歯科医院で患者さんにしっかり説明できる本
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1413579112468101213 歯周ポケットを顕微鏡で慎重に観察すると、歯根表面にプラークが付着しており、歯周ポケットの中にも侵入しています。歯周ポケットを囲む組織には、ものすごい数のリンパ球と形質細胞が帯状に集まっているのもわかります(炎症性細胞浸潤)。これらの細胞は、プラークとプラーク由来の内毒素が生体内に侵入しないように、抗体をつくって一生懸命戦っているのです(図2-4)。ポケット内で毛細血管が露出している 歯周ポケットと、歯肉に帯状に集まったリンパ球と形質細胞との間には、普通はポケット上皮が見られます。しかし、炎症が強く、急激(活動期)であったために、ポケット上皮が壊されています。さらに、リンパ球や形質細胞の集合した部分には毛細血管がたくさん見られます。これは、出血はないものの、上皮が壊されて血管がポケットに露出していることを意味します。 この病態は潰瘍と同じですから、プロービングを行なうと露出した毛細血管が引っかかれるため、出血します。これがプロービング時の出血、つまりBoPであるといえます。転んですりむいた手のひらと同じ ポケット内の急激で強い炎症は、路上で転んで激しく手をすりむいたときと似ています。この場合、手のひらの皮膚がポケット上皮にあたります。血がにじんでいる手のひらを金属の棒でこすると、当然出血しますよね。手のひらの傷口は時間が経つと、“かさぶた”ができて血は止まりますが、“かさぶた”をひっかくとまた出血してきます。 ポケット内に強い炎症があると、ポケット上皮はなかなか再生されませんので、プロービングによる出血はいつ起こってもおかしくない状態です。ただ、歯肉には分布する神経が少ないため、金属の棒でこすっても(プロービングをしても)、傷だらけの手のひらをこすったときのような痛みはありません。しかし、路上で転んだときの汚れに比べると、プラークが残っているポケット内は、何万倍、いや何百万倍も汚れていると想像できます。 BoPは、歯周ポケット周囲の炎症が激しく活動していることを意味しています。ですから、できるだけ速やかにプラークを除去する必要があります。 一方、ポケットがあり、プロービングをしても出血しない場合は、ある程度炎症が抑えられてポケット上皮が形成されている状態と考えられます。プロービングの後、しばらく経ってから「じわっ」と出血する場合は、上皮がいくらか形成されているものの、プラークが残存しているため、一部の血管がポケットに露出している状態と推測できます。BoPの意味するところ図2-4 歯周炎の病理組織像プラーク上皮の剥離炎症性細胞浸潤ポケット形成〈参考文献〉下野正基. やさしい治癒のしくみとはたらき 歯周組織編. 東京:医歯薬出版, 2013;69.27

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