新版 歯科矯正学事典
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190タイムの短縮に大きく貢献するため最もよく使用されている.差動矯正法 di erential orthodontic treatment 多くの教科書どおりのマルチブラケットシステムの矯正治療法(マニュアルどおりの矯正治療)は上下顎同時に矯正装置を装着し,また同時に抜歯をして開始することを原則としている. しかし,矯正治療の普及,技術・手法の進歩や,その効率性からみての多様化と矯正治療に対する患者の考え方の多様性から,教科書どおりやマニュアルどおりの矯正治療が必ずしも最善の治療法とはいい難い症例(とくに小児のある種の不正咬合や成人の場合)が生じており,これに対する効率的矯正治療法として差動矯正法が開発されている. 差動抜歯法の項で解説するように下顎前突症例の場合,下顎小臼歯を先に抜歯を行い下顎切歯を何らかの方法(下顎にブラケットワイヤーによる方法あるいはチンキャップによる下顎の成長抑制)でオーバージェットをプラスとしてから上顎にブラケットとワイヤーを装着する矯正治療法として開発され(1967,亀田),その後,上顎前突の差動矯正治療法が開発された(1994,亀田). この方法は上顎前突過蓋咬合やオーバージェットの大きな症例の場合,上下顎小臼歯を同時に抜歯して矯正治療を開始すると下口唇を咬む癖が生じやすく,治療の終盤で二態咬合を生じやすく,オーバージェットが残りやすいことを防止する矯正治療法であり,また過蓋咬合では上下顎同時の矯正装置の装着により下顎前歯部の装置が破損しやすく,それにより患者・術者ともにストレスを与え結果として治療結果を悪くする.これらを防止するために考え出された治療法である.【方法】 まず,上顎歯のみにブラケットワイヤーを装着(抜歯・非抜歯とも)し,上顎前歯のレベリングと咬合挙上を行いオーバーバイト・ジェットを多少改善したところで,下顎歯にもブラケットとワイヤーを装着し上顎前突過蓋咬合の治療を続行して,オーバージェット・バイトを適正にしていく. なおこの方法は上顎前突過蓋咬合の早期治療法としても用いられている⇨「上顎前突過蓋咬合の早期治療法とその症例」参照.【症例:成人18歳2か月の女性の過蓋咬合(下顎切歯2本先天的欠如)】1.アングル Ⅰ級(下顎2本切歯先欠のため)2.オーバーバイト:8.0mm,オーバージェット:14.5mm3.下顎側切歯2本先天的欠如オーバーバイト:8.0(mm).オーバージェット:14.5(mm).初診時口腔内写真.初診時のデンタルX線写真(18歳2か月).上顎前歯部のレベリングと咬合挙上がある程度達成されるまでは(約6か月)下顎にブラケットとワイヤーは装着しなかった.動的治療終了時の口腔内写真(20歳2か月:動的治療期間:24か月).保定後4年の口腔内写真(24歳2か月).サトウキヨ

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