新版 歯科矯正学事典
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422ほ包括矯正歯科治療 comprehensive orthodontic treatment  一般の不正咬合の患者や,頭頸部の機能障害・顎顔面の変形を伴う患者に対して,既存の矯正治療のみでは患者・術者にとって矯正歯科治療環境が整っていない,矯正歯科治療のみで解決することはきわめて難しい,あるいは補綴,保存,歯周,口腔外科の他分野,さらには美容外科などと協力することで,期間・労力・治療結果などが有効となる場合に行われる総合的な矯正治療のことである.具体的な治療方法は,顎顔面のさまざまな成長発育段階において明確な到達目標を設定し,いくつかの段階を合わせて患者と術者の十分な話し合いを基に,その患者の社会的背景に合わせて総合的に行われる.つまり,補綴処置,保存修復および歯周病治療,抜歯,顎変形症治療,外科的矯正治療,筋機能療法,言語治療を付加した処置などが,その患者の社会的背景,生物学的背景に合った最良の到達結果に最短距離でいたるために同時に行われる.一般的に動的な包括的矯正歯科治療の終わりには,個々の歯はその患者に良く適応した位置にあることになり,その患者の社会的背景や生物学的背景の範囲内で審美や咬合において最適な条件が得られている.動的処置に続く総合歯科の管理は到達した治療結果の維持管理に重要な役割を果たし,加齢および機能が変化していく中で患者の自己責任,自己管理が重要なポイントとなる.また包括矯正治療の料金は,一般歯科医で行われる場合には,補綴など種々の処置が含まれた料金設定であることが多い.縫合性成長 sutural growth 骨と骨との間に存在する縫合部に新生骨が添加することで起こる骨の成長様式である.原則的には骨膜性成長(膜内骨化)の1つである.頭蓋を構成する骨の縫合部では,相互の骨表面に増殖した骨芽細胞とその間に存在する繊維に富む組織により構成されている.この部位に脳実質の増大に伴う刺激が加わると,結合組織細胞や骨芽細胞,血管などが増殖し新生骨が作られる.部位としては頭蓋骨間縫合部や鼻上顎複合体縫合部でみられる.矯正学的に縫合を開大させた後にはその治癒過程で膜内骨化を促進させるが,軟骨組織が形成される場合もある.⇨骨膜性骨化,軟骨性骨化ボーイング効果 bowing e ect【垂直的ボーイング効果】 En masse retractionの際,舌側矯正ではとくに強い力を加えなくても上顎前歯は舌側傾斜してくる.遠心方向への力および前歯に加わる挺出力によるリンガルクラウントルク(lingual crown torque)は前歯のバイトプレーン効果(bite plane e ect)および臼歯の離開を生じさせる.これにより臼歯の近心への傾斜が生じやすくなる.この状態が,いわゆる垂直的弓なり現象(vertical bowing e ect)である(図1).【水平的ボーイング効果】1)上顎 舌側前歯の舌側移動においては,原則として小臼歯部の頰側傾斜,大臼歯部の舌側傾斜,および大臼歯の近心移動による舌側の近心回転を伴なう,図2のAのライン方向への歯列変形が起こる.したがって,この変形に拮抗するアーチフォームにする必要がある.2)下顎 下顎前歯の舌側移動においては,大臼歯の舌側面は近心方向に回転する.またルートラビアルトルクがかかるため,近心頰側根は厚い頰側皮質骨に圧接して,いわゆる皮質骨固定(コーティカル・ボーン・アンカレッジ)がかかる.このため舌側矯正では自然なアンカレッジ・ロス(Anchorage Loss)が起こりにくく,下顎の空隙閉鎖は比較的困難である.したがって,図3のBのラインに示すようなアンチ・ボーイング・ベンドをワイヤーに入れる必要がある.⇨リンガルブラケット法,舌側矯正ボールクラスプ ball clasp 床から出たワイヤーの先端がボール状の形態をした床矯正装置に多く使用されるクラスプである.アローピンクラスプなどとともに既製のクラスプが市販され臨床的にも広く使用されている.【長所】①歯肉などの歯周組織に悪影響が少ない,②作製が容易である,③破損した場合に修復が容易である,④アンダーカットの少ない乳歯あるいは前歯部においても使用可能で適応範囲が幅広い.

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