スペシャリストたちに学ぶ インプラントのための骨増生
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教育講演図1 上顎洞前壁から採取した標本の病理組織写真(H.E.染色)。上顎洞粘膜は多列線毛円柱上皮と固有層から成り立ち、固有層の直下には骨膜が存在している。トラブル症例から学ぶ、安全なサイナスフロアエレベーション野阪泰弘 Yasuhiro Nosaka (兵庫県開業)1985年 大阪歯科大学卒業1989年 大阪歯科大学大学院修了2005年 野阪口腔外科クリニック開業所属:SAFE(Sharing All Failed Experiences)緒言 サイナスフロアエレベーションは、上顎洞底部に行う骨造成術で、サイナスリフトとソケットリフトに分類され、インプラント治療における適応症の拡大に大きく寄与している。しかし、サイナスフロアエレベーションでトラブルが起こった場合は、上顎洞炎の併発によって患者に大きなダメージが生じるため、安全な術式と骨補填材料を検証することは重要と思われる。 一方、多くの論文や書籍では成功例のみが記載されているため、読者はトラブルが生じるリスクを知らずに手術を行う危険性がある。本稿では、CT画像で明らかとなったサイナスフロアエレベーションの新事実を供覧し、トラブル症例で学んだ生体の反応を検証することによって、安全な術式と骨補填材料について考察したい。上顎洞粘膜を剥離・挙上する? 通常、サイナスフロアエレベーションの論文や手術書には、「上顎洞粘膜を剥離・挙上する」という表現が用いられている。しかし、実際には上顎洞粘膜の直下に骨膜が存在し、サイナスフロアエレベーションでは「上顎洞粘膜直下の骨膜を剥離、挙上している」ということを認識するべきである(図1)。術後CTで判明した新事実1.剥離された上顎洞粘膜は、収縮して分厚くなる 正常な上顎洞粘膜は紙のように薄いため、CT画像では確認できない。しかし、サイナスリフト直後のCT画像では、剥離された骨膜と上顎洞粘膜はライン状の陰影を呈し、収縮して分厚くなると考えられる(図2-a、b)。一方、手術書では剥離された骨膜と上顎洞粘膜は波状に描写されているが1)、臨床的にはあり得ない状態と筆者は考えている(図2-c)。2.術後1週に上顎洞粘膜は腫脹する 2006〜2016年の11年間に当院で施行したサイナスリフト症例は199例、243側で、術後1週のCT画像では243側(100%)に上顎洞粘膜の腫脹が認められた。上顎洞粘膜腫脹の程度を、残存上顎洞の1/3未満(Type 1)、1/3〜2/3(Type 2)および2/3以上(Type 3)の3タイプに分類した(図3)。Type 1は43側(17.7%)、Type 2は103側(42.4%)、Type 3は97側(39.9%)で、約80%の上顎洞粘膜は残存上顎洞の1/3以上に腫脹していた。一方、術後3ヵ月のCT画像では、上顎洞粘膜の腫脹は自然に消退し(約97%)、上顎洞粘膜の腫脹は外科的侵襲に対する一過性の生体反応と思われた(図3)。固有層骨膜多列線毛円柱上皮上顎洞前壁の骨56

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