根面う蝕の臨床戦略
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根面の耐酸性を高め、細菌の進入路を断つことが重要 エナメル質のう蝕による脱灰は、表面下で発生することが多いですが、根面の露出象牙質は有機物が多く、多孔質であることなど、エナメル質とは構造が異なるために、エナメル質に認められるような表面下脱灰が起きることが少なく、多くは表層からの脱灰で、実質欠損が生じます。根面表層でのフッ化物濃度が高くなっている場合などでは、露出象牙質においても、表面下の方が、より多くのミネラルの溶出が生じることもありますが、エナメル質での表面下脱灰の際の表層よりはミネラルの密度が低くなります。 また、唾液が十分にあり再石灰化環境になれば、象牙質においても再石灰化します。しかも象牙質は、細管が存在するだけなく、表層のミネラル密度が低く、多孔性であるために、カルシウムやリンが象牙質内部まで入りやすいです。再石灰化環境になれば、エナメル質に比べて再石灰化しやすくなります。さらに、象牙質の本来の構造と関係なく、象牙細管部の空隙も石灰化するため、本来の象牙質部よりも耐酸性が高くなるだけでなく(過石灰化)、細管が無機物で閉鎖されるため、細菌や酸の象牙質内部への侵入を防ぐことが可能になります。 しかしながら、多発性の根面う蝕が認められる口腔内では、唾液分泌低下などにより、十分な再石灰化環境が得られず、また、細管を通じて細菌が象牙質内部にまで侵入していることが、象牙質の再石灰化の妨げになっています。根面で再石灰化をうながすには、細菌の侵入した病的象牙質を適切に取り除き、根面周囲の再石灰化環境をいかに作っていくのかが課題となります。そのため、唾液分泌低下などにより根面の周囲の環境が悪化して再石灰化環境が得にくくなり、脱灰が起きて象牙質表面のミネラル濃度が低下する前に、露出根面に対してフッ化物を適切に使用して、露出根面の耐酸性を高めておくことが、根面う蝕の予防において重要です。象牙質には多数の細管が存在するF-PO43-Ca2+過石灰化脱灰再石灰化象牙質象牙細管フッ化物リンカルシウム(写真は東京歯科大学組織・発生学講座・見明康雄先生のご厚意による)9

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