新版 チェアサイド・介護で役立つ 口腔粘膜疾患アトラス
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SECTION 18口腔粘膜の化膿性炎18SECTION 口腔領域の感染は「歯性感染症」(odontogenic infection)が多い。歯周や根尖が菌の侵入門戸となり感染巣を形成する。 正常な歯肉や口腔粘膜は、それ自体がバリアーになっていて、常在菌が組織に浸入するチャンスは少ない。ところが、咬傷、義歯や不適合な補綴物による粘膜の損傷、口腔乾燥による粘膜上皮の摩耗などでは解剖学的バリアーが障害されると、歯と歯周以外の口腔粘膜からも細菌やカンジダが組織に侵入する機会が広がる。口腔粘膜の化膿性炎:外傷から感染する可能性があります。 有床義歯補綴診療のガイドラインでは、デンチャープラークコントロールのために、歯ブラシで義歯を清掃する機械的清掃法や、就寝中に義歯を義歯洗浄剤に浸漬させる化学的清掃法が推奨されている。 義歯清掃とともに口腔清掃の重要性が指摘されていて、義歯清掃時には、口腔も含嗽し清潔に保つようにさせること、残存歯のブラッシングに加え軟らかい歯ブラシでの顎堤粘膜や舌背を清掃することが推奨されてい る15)。このガイドラインに従っている歯科医師は比較的多いようで、歯ブラシで粘膜を擦っている患者さんをときどきお見かけする。 しかし高齢者や関節リウマチ患者では、手指の力のコントロールが難しくなり、セルフケアが困難になってくる。セルフケアによって粘膜を傷つける可能性があることを念頭に置き、適切に口腔管理を行う必要がある。 図18-1は無歯顎であるが、義歯を洗浄するときに粘膜も歯ブラシで清掃する習慣がある。高齢であり力のコントロールがうまく行えずブラシで粘膜に「外傷」(injury)を作ってしまった。その損傷部から口腔常在菌が組織内に侵入し口蓋に感染巣を形成したものである。口腔領域には歯性以外の「化膿性炎」(purulent inammation)もある、という例である。 化膿性炎には、抗菌薬による薬物療法APPENDIXを行う。口腔管理の注意点:外傷を作らないような注意が必要です。 口腔の疾患は、う蝕と歯周病、それらに継発する化膿性炎など、そのほとんどが歯性感染症である。上顎の根尖性歯周炎からの化膿性炎は、口唇・頬側の歯槽骨の方が口蓋側よりも薄いため、膿瘍は口唇・頬側に生じやすい。口蓋の片側性の膨隆は唾液腺腫瘍30SECTIONを疑わせるし、また上顎臼歯部の根尖部は口内法エックス線写真で見にくいことがあるため、根尖性歯周炎由来の口蓋部の膿瘍がときどき見過される。特に、歯の打診痛など症状がない場合に、歯科治療が行われず腫瘍を疑って口腔外科を紹介されるケースがある(図18-2)。図18-3は波動もあることから診断に困らない。図18-2のような無痛性の隆起で腫瘍性病変が疑われる場合も歯性感染症を念頭において対処すべきだ、という例である。口腔病変でまず疑うのは:感染症です。55

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