研修医・歯科衛生士にこそ読んでもらいたい! 学校では習わなかった義歯と義歯ケアの話
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46Part 1Ⅰ.超高齢者の義歯を難しくする要因1超高齢者が使用する義歯とは? 現在の全部床義歯補綴など多数歯欠損に対する有床義歯補綴の治療体系は,かつてのSwensonやBoucherの無歯顎補綴学に代表されるように,有床義歯補綴の対象が50~60歳代であった時代の理論を基盤としています. さまざまな意見はあると思いますが,当時の無歯顎患者は現在と比較して若く,抜歯も比較的早期に行われていたと推察されます. そのため,顎堤粘膜も厚く,顎堤の形態も良好な場合が多く,また当時の平均寿命が70歳代であることを考えると,脳卒中などで舌などの口腔機能に問題を持つ患者も少なかったと推察されます. つまり,誤解を恐れずに言えば,Classic Articleによって構築された有床義歯補綴の治療体系は,口腔も全身も健常だが,歯と顎骨が失われている患者を対象としていたもので,咬合の回復がそのまま経口摂取の確立を意味していました(図7-1). その治療体系は,現在,口腔インプラント治療の登場によって,より簡潔で効果のある方向に変化し,咀嚼能力の向上など患者にとって恩恵となる点も多いと考えられます.しかし,超高齢者の義歯に口腔インプラント治療がそのまま当てはまるわけではありません.2義歯を必要とする患者は在宅にいます 2016年(平成28年)の歯科疾患実態調査では,わが国における8020達成者の割合は51.2%となっており,1989年に始まった8020運動は一定の成果を挙げたと言っても良いでしょう.一方で,2011年の国民健康・栄養調査では70歳以上の60.1%が義歯を使用しています,また,2016年の簡易生命表によると平均寿命は男性80.98歳,女性87.14歳となっています. これらを総合して考えると,今後,歯科医院の院内診療での義歯治療は減少して,義歯治療は在宅高齢者への訪問診療で実施する機会が増えていくことが予想されます.超高齢者の義歯製作が難しいのはなぜですか?QUESTION.7従来の有床義歯の治療体系咬合の確立=経口摂取の確立今後の義歯治療は院内よりも在宅での嚥下や食支援が中心多職種連携が必須入れ歯を入れたら、お肉が食べられた医師介護士管理栄養士看護師歯科衛生士歯科医師入れ歯を入れたら何でも食べられる図7-1 従来の有床義歯の治療体系は現在では成り立たない.それゆえ歯科が行う義歯治療は多職種から期待されるようになってきている.

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