咬合YEARBOOK 2018/2019 咬合と矯正歯科治療
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12別冊 the Quintessence「咬合YEARBOOK 2018/2019」1総論はじめに 本別冊では矯正歯科治療における咬合についてとりあげることになった.矯正歯科治療はもともと発育期における咬合誘導等,成長発育とともに変化する顎骨と歯列との関係のなかから適切な隣接歯ならびに対合歯との接触関係をすべて天然歯によって育成し,構成しようとするものであった. 矯正の祖ともいえるAngleは,ミネソタ時代は補綴を教えていたが,後に天然歯の咬合とそれを正常な咬合にする治療方法に向かい,どのような咬合に導くべきかを不正咬合の分類から形態的に示している.成長期であればある程度の自由度をもって理想的な咬合関係を作りだすことができるとしている1. しかし,少子高齢化などとともに矯正歯科治療の対象が成人にも急速に拡大し,場合によっては歯周疾患をともなった歯列や,欠損補綴歯なども含めた歯列の咬合構成を考える必要性も生まれてきている.いずれの場合にもそもそも「達成すべき適正な咬合は存在するのか?」「それが長期に安定するといえるのか?」という素朴ではあるが,もっとも重要な質問が生まれてくるのは当然で,これまでも繰り返し議論されてきている.そして,これらの質問に対する明確な答えがまだないことは予測できる. 咬合に関しては科学的根拠で示されるような決定的な正論はなく,歯科学の黎明期からこれまでの間,さまざまな説が議論されているだけである.ここで取り上げる矯正歯科学の分野においても然りで,万人を納得させる答えを与えられることはいまだない.それでも,あえてその「議論のなかでの共通項を探ることには意味がある」と考える. 本稿では,文献や矯正歯科学の大家の教科書を渉猟してこれまでに取り上げられてきたさまざまな説をまとめ,その共通項を探っていくことで,今後の指針の一助としたい.そのために,本テーマの総説を依頼されたことに対して,この掴みどころのない世界にQ&A形式で向かってゆくことを考えた.矯正歯科治療と咬合 Q&A達成すべき適正な咬合は存在するのか?それが長期に安定するといえるのか?1前田早智子*/前田芳信*1Sachiko Maeda,Yoshinobu Maeda*1大阪大学大学院歯学研究科特任教授/*,*1オーラルケアステーション本町歯科*連絡先:〒541‐0053 大阪府大阪市中央区本町3‐6‐4 本町ガーデンシティ4F

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