咬合YEARBOOK 2018/2019 咬合と矯正歯科治療
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13別冊 the Quintessence「咬合YEARBOOK 2018/2019」矯正歯科治療と咬合 Q&AQ1A1これまで咬合は理論を中心に議論されてきたのだが,そもそも咬合理論にエビデンスはあるのだろうか?臨床経験に基づくものは多いが科学的根拠となるものはほとんどない Taylorらの2005年のレビュー2にもあるように,長らく咬合理論として取り上げられ,教えられ,さらに議論されてきた咬合ではあるが,残念ながらいわゆる科学的な再現性のある根拠には乏しい.咬合理論においては,Gysi3に代表される,いわゆる人工歯の咬合理論が主にとりあげられ,義歯の安定を目的とした両側性平衡咬合,片側性平衡咬合から始まり,犬歯誘導,グループファンクションなどに代表される天然歯列の咬合につながってきたといえる(図1). 一方,咬合が関与する病態も,歯科の主要な疾患としてう蝕,歯周疾患による多数歯の喪失や欠損歯列から推移し,現在ではそれらの予防,抑制の概念が定着してきて多数歯残存の状態となっている.それに並行して顎関節での問題が表面化し,一時は咬合がその主たる発症要因であるとされていた時期を経て,現在では,連動,あるいは相互に影響はするものの,いわゆる「咬合による治療」でその問題を解決することが第一選択ではなくなってきている. このように,咬合は歯科治療やメインテナンスにおいて重要な因子ではあるものの,科学的検証が難しいことから比較研究などのデータが不足したまま,つねに概念が述べられてきている状態が続いている. 矯正に関しても同様で,20世紀初めまではほとんどの不正咬合の問題を抜歯で解決してきたが,Angleの登場により非抜歯ですべての歯による正常咬合の追求が主流となった1.しかしその後,非抜歯治療の不具合が顕在化し,Caseら4との有名な抜歯非抜歯論争が起こった.この問題は現在まで続いているが,やはり科学的検証の困難さから治療後の咬合の安定性やTMDとのかかわりなど概念論の域を出ない. 現在では咬合に関して,主体であり治療を受ける患者の意識や希望する内容も変化してきていることも重要な因子である.以前は治療に対して機能的な問題の解決が主であったが,現在はより外観,審美性を患者が求めるようになり,かつ結果の持続性を求めるようになっている.小範囲の補綴物作製咬頭嵌合位主導天然歯列での咬合調整ロング・セントリックオーラル・リハビリテーション中心位で咬頭嵌合位補綴装置における咬合の概念の例図1 補綴装置における咬合の概念の例(参考文献3より引用改変).

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