咬合YEARBOOK 2018/2019 咬合と矯正歯科治療
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117別冊 the Quintessence「咬合YEARBOOK 2018/2019」MRIを用いた機能的安定位における咬合再構成療によるこのような環境変化が引き金となり,顎関節症状および下顎位の変化を惹起し治療を困難なものとするばかりか,重篤な進行性下顎頭骨吸収を引き起こす可能性がある.したがって,矯正歯科治療を行う際には,安定した下顎位ならびに顎関節環境を有しているか確認することが重要である. では,安定した下顎位とはCRであるのだろうか.先述のように,最新の定義では下顎頭の関節窩内での位置を基準としており,咀嚼筋や関節円板を含めた関節周囲軟組織といった解剖学的および生理学的に不可欠な要素については考慮されていない.矯正歯科治療を希望する患者のなかには何らかの顎関節症状を有する患者が潜在しており9,顎関節円板障害や変形性顎関節症も認められる.正常な顎関節の状態ならまだしも,このような器質的変化をともなう場合には,単に関節窩内での下顎頭の位置だけでなく,そこに咀嚼筋や関節円板を含めた関節周囲軟組織との調和といった要素を組み入れることは必然であり,その評価を基に治療期間を通じて安定した下顎位を獲得する必要がある. このような下顎位を筆者は機能的安定位(図1)と捉え,矯正歯科治療時の治療的顎位として個々の患機能的安定位の概念と定義図1a,b 機能的安定位の概念と定義.すべての歯科治療介入においては安定した下顎位が大前提であり,とくに咬合再構成においてはその治療期間を通じて安定した顎関節環境が必須である.全顎的な矯正歯科治療はまさに咬合再構成であることから,診断時における下顎位の診査は必須であり,なかでも顎関節に自覚ならびに他覚症状が認められる場合には,治療的顎位を模索する必要がある(図1b内①~④は,『Temporo-mandibularDisorders:AnEvidenced-BasedApproachtoDiagnosisAndTreat-ment』〔DanielM.Laskin(編),CharlesS.Greene(編),WilliamL.Hylander(編),QuintessencePublishingCo,Inc,Chi-cago〕より,版元の許可を得て引用).PointAreaFSPOptimal condition≠Optimal condition=Area=顎関節の最適な状態とは,下顎頭が下顎窩内の特定された位置にあることではない「最適な状態という個人によって機能的に安定する範囲がある」「個々にある範囲に安定した下顎位を顎関節の機能的安定位(FSP:Functionally Stable Position of TMJ)とし,咬合再構成時の治療的顎位と定める」図1a図1b解剖学的に正常な,ヒト顎関節標本の矢状断面.①は外側,②は中央部,③は内側.円板形態,円板位置および骨も正常である.偽円板化を呈するヒト顎関節矢状標本.円板は前方転位しているが,後部組織の線維化が認められる.機能的安定位(FSP:Functionally Stable Position of TMJ)【定義】「下顎頭が下顎窩内でもっとも安定し,咀嚼筋や関節周囲軟組織と調和のとれた患者個々に最適な状態にある下顎頭と下顎窩の位置関係である」(最適な状態にある下顎頭と下顎窩の位置関係とは,下顎窩内における下顎頭の1点に特定された位置とは捉えず,患者個々に安定する許容範囲がある)①②③④

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