咬合YEARBOOK 2018/2019 咬合と矯正歯科治療
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190別冊 the Quintessence「咬合YEARBOOK 2018/2019」3一般歯科臨床医の視点からの咬合論:咬合と矯正歯科治療,私はこう考える1. 矯正治療と補綴治療,それぞれの咬合に対する私の考え 現在までの筆者の約20年間の臨床経験は,矯正専門医として大学病院で約10年,その後,開業医として約10年間,補綴を含む包括的歯科治療に携わってきた.矯正専門医時代に咬合に関してつねに考えていたことは,矯正医が与えた新たな咬合を生体がどのように許容してくれるかということだった.つまり,矯正治療後の後戻りを考え,周囲の筋肉ならびに顎関係に調和した咬合を与えることを目標としていた. 一方,クラウンブリッジなどの固定式の補綴治療を行うようになってからは,自分が装着したセラミックの補綴装置のチッピング等のトラブルを避けるために,できるだけ咬合を変化させず,長持ちさせたいとういう意識が芽生えるようになった.さらに,顎位が不安定で顎堤が過度に吸収しているような総義歯の難症例を自ら手がけるようになると,また違った視点で咬合を考えるようになった.いくつかの難症例の無歯顎患者に携わって印象深かったのは,年齢と口腔内の状況から考えると,もっとも開きがあると当初想像していた総義歯治療と矯正学が考える咬合とには,非常に多くの共通点があると気付かされたことである.矯正治療では,歯の位置は周囲の口輪筋・頬筋・上咽頭収縮筋などの筋肉が歯列外側から働き,歯列内側の舌圧に拮抗して歯列や咬合を安定させている(頬筋機能機構:buccinator mechanism)1.つまり,咬合を支持する歯の位置は,周囲の軟組織と調和がとれていないと安定しないとも考えられる.この考え方は,総義歯の人工歯の配列位置の決定に大きく関与し,安定した義歯の咬合にもつながる. 一方,矯正治療と総義歯の咬合の付与は大きく2つの点で異なると筆者は感じている.まず1点目は,事前に試せないことである.総義歯の場合,事前の診査,診断から導き出された情報を基にして決定されたプロビジョナルの義歯を用いて,ファイナ変化に寛容な矯正治療の咬合と厳格な補綴治療の咬合の調和を目指して5綿引淳一Junichi Watahiki東京都開業 AQUA日本橋DENTALCLINIC連絡先:〒103‐0022 東京都中央区日本橋室町2‐4‐1 浮世小路千疋屋(YUITO ANNEX) 4F

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