ペリオドントロジー&ペリオドンティクス上巻
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CHAPTER 6 歯周炎の治癒とは159Fig 38i デコロネーション前の1のCBCT像.骨吸収は唇側のみでみられ,その進行は歯髄腔の位置までであることがわかる.Fig 38j デコロネーション後1年1か月のCBCT像(hと同じ画像).青の部分はデコロネーション部に再生してきた骨量(=受動的治癒骨量)である.すなわち,骨欠損は周囲の骨レベルに応じて,垂直的にも水平的にも修復再生される可能性があることが想定される.なぜ唇側の歯槽骨が吸収するか 上記の臨床観察では,歯根膜を喪失すると,唇側の歯槽骨が吸収を受けることが判明した.どうして口蓋側では生じず,唇側のみに起こるのであろうか? ヒトの顎・顔面・頭蓋の成長は,「縫合部での骨添加」,「骨表面でのリモデリング(骨の吸収と添加)」,そして「歯の萌出」により起こるといわれている(Fig 39~41)65.顎の成長発育を上顎のみに注目すれば,顎骨は歯の萌出時期に合わせて後ろ(後臼歯方向),下方へ成長する(Fig 40).一方,上顎骨の前歯部のリモデリングに注目した場合,前歯部の骨表面に吸収領域が(遺伝的なプログラムとして)存在することは興味深い(Fig 41). さらに詳しく,上顎前歯部の骨の吸収と添加をみると(Fig 42a),鼻腔底と歯根の唇側表面に吸収域が存在し,口蓋側は添加域になっている.歯の萌出だけによる骨添加を考えた場合,歯は歯軸方向に萌出するので,上顎骨は前下方へ成長することになる(Fig 42a).しかし,上記の上顎前歯部の骨のリモデリングがあるために,上顎前歯部の骨は全体的には下方へ成長することになる(Fig 42b *Fig 33参照).実際,発育成長期(思春期の終了前)の外傷による脱落歯を遅延型再植した場合,アンキローシス(歯根膜がなくなり骨癒着した状態)により歯の萌出が停止した歯は,上顎の発育とともに唇側で根尖側へ位置するようになる(Fig 42c, d).これは,顎の成長とともに周囲の健全な歯が下方へ移動したことを意味している.この症例に限らず,ほとんどすべての症例でアンキローシスに陥った歯は,周囲の歯に対して相対的に唇側および根尖側に移動(位置)することから,上記で考察した,上顎前歯部での骨のリモデリング(唇側での骨吸収と口蓋側での骨添加)のパターンが正しいことが想定できる.すなわち,「上顎前歯部の外側骨表面では,歯(歯根膜)がなくなると,あるレベルまでは遺伝的に吸収を起こす領域が存在すること」である.すなわち,「歯が存在しない基底骨部以外では,歯によって唇側の骨レベル(骨幅)が決定されていること」である(ただし,口蓋側に歯が転位している場合は例外である). そこで,上記の考察結果を歯周炎とその治療に当てはめた場合,以下のような結論(推論)が導きだされる.①歯周炎により歯根膜がなくなると,その部位のTDBV(歯依存骨)も喪失する.②細菌感染を除去することにより,歯根膜が再生しなくてもTIBV(歯非依存骨)は自然回復できる可能性が高い. このことを実際の症例で確かめたのがFig 43である.ij 受動的治癒骨量₁sagittal₁sagittalBaseline1y 10 m

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