臨床家のための矯正YEARBOOK2018
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図3 進行性下顎頭吸収により惹起された開咬.図4 AngleⅢ級骨格性開咬症例.図3図4013臨床家のための矯正YEARBOOK 2018成人の開咬─その治療を考える 開咬の発現率は2000年以降に報告された歯学部・歯科大学附属病院矯正科での統計では,全登録患者の4~10%であり,さらに全患者に対する成人患者の割合が30~45%と報告されていることから,成人の開咬患者の割合は全登録患者の1.2~4.5%と推定される3~10.成人開咬の形態的特徴と診断 成人の開咬症例は,前述のさまざまな遺伝的および環境的要因で引き起こされた成長期の歯性あるいは骨格性開咬を認知せず,あるいは認知はしても対処せずに成人になったケースと考えられる.ただし,成人で短期間のうちに開咬が発症,悪化するような場合は,進行性下顎頭吸収(図3)に起因していることがあるので十分な注意が必要である11. 歯性開咬症例の特徴は,切歯部位の垂直成長が機械的外力で抑制されたもので,骨格系の異常は少ないが12,骨格性開咬症例では下顎劣成長でSNBが小さい,SNAやANBが大きい,下顎下縁平面角や下顎角が大きい,口蓋平面は上方に傾斜しSN-PPが小さい,上顔面高は小さいが下顔面高は大きいと報告されており,歯系では,PPからの上顎臼歯,切歯までの距離がともに大きく,上顎切歯は前突していると報告13されている.開咬の診断では歯性あるいは骨格性の開咬かを判別する必要があるが,その境界は明瞭ではない14. 臼歯部では咬合しているが前方歯では次第に開咬を呈してくる症例(図1)は歯性開咬と考えられるが,最後臼歯のみが咬合し,その前方歯は開咬状態の症例(図2)は骨格性開咬と考えられ,前述の形態的特徴を有している. 一般に重篤な開咬症例ほどマイナスOverbiteが大きいが,Overbiteのみならず開咬の咬合状態,歯系,骨格系の特徴を検討したうえで診断し,治療方針を決定する必要がある.さらに,骨格性開咬はAngleⅠ級のみならずのⅡ級やⅢ級(図4)を呈することも多いため,上下顎の近遠心関係の評価を行い,治療方針に反映する必要がある.成人の開咬治療 開咬は治療後の後戻り率が大きいため,後戻りを十分考慮した治療が必要である.小児の開咬治療に関するメタアナリシスのコクランライブラリーでは,弱いエビデンスではあるがいくつかの治療法が有効であると報告されている15.しかし,成人の矯正治療に関してこのような報告は見当たらない. 成人の開咬症例はマルチブラケット装置を駆使しで治療することが妥当と考えられ,歯性の開咬であれば歯の移動による矯正単独治療を試みるが(図1),骨格性開咬では顎骨骨切り術を併用した外科的矯正治療が望ましい(図2).術者により治療法は異なると考えられるが,研究報告を踏まえた現状での開咬治療法を図5に示す.

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