最新インプラント補綴-デジタルとアナログの融合-
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シンポジウム1可視化時代におけるMulti-Digital Dentistryの展開:歯科医療における “デジタル革命” そこにある期待と現実杉元敬弘 Norihiro Sugimoto (京都府開業)1992年 徳島大学歯学部卒業1997年 スギモト歯科医院開業日本顎咬合学会認定医、日本口腔インプラント学会会員、日本歯周病学会会員、日本矯正歯科学会会員、JIPI(Japanese Institute of Periodontology & Implantology)はじめに 昨今、"デジタル"というキーワードが社会・ビジネスを変革するドライバーとしてさまざまな領域で議論されている。 また、技術革新や現実社会への適用により、かつての産業革命と同様にわれわれの社会を急速に変容させつつある。その一例として、歯科以外の医療分野でも広く応用されている支援外科(Computer Guided Surgery)が挙げられる。 たとえば、整形外科ではPSI(Patient Specific Instrumen­tation)と呼ばれ、 近年の3Dプリンタの発達にともなって、術前CTあるいはMRIデータから三次元骨格モデルを作製、その形状に応じたガイドをデザインし、骨折治癒後の変形矯正や目標とする体内埋込型インプラントの設置を規定するガイドが作製され、高い精度と良好な結果から広く臨床に使われている。しかしながら、歯科の分野での応用においていくつかの文献では、それほどの精度が出ていないこと、ガイドサージェリーが従来の方法よりもすぐれている点はないと結論づけられていることもあり、賛否に分かれる1、2)。これらの背景のもと「最新は最善か?」、この普遍的な問題に直面する今の時代において歯科における“Multi-Digital Dentistry”について考えてみたい。 Multi-Digital Dentistryとは造語であるが、デジタルを学ぶことにより既存のルールから派生する自由な発想での応用という概念である 。今回は、顎関節診断・セットアップ・最終補綴・インプラントの埋入位置等をバーチャル上でシミュレーションし、インターディシプリナリーを可能とするため治療予測を共有しながら、真の総合歯科診療を達成することを目的としたデジタルシステムを試みたので報告したい。症例供覧症例1 患者は57歳の女性で、左側下顎臼歯部の動揺と咬合痛を主訴に来院。臼歯にインプラントを希望されたが、咬頭嵌合位は不安定で一ヵ所にとどめておくことができず、前歯は半分クロスバイト、咬合高径低下も疑われ臼歯部の補綴間隙も足りない状態であった。つまり、咬合を構成する重要な要素である、①適正な下顎位、②適切な咬合高径、③咬合平面の設定、④アンテリアガイダンス、⑤咬頭嵌合位の安定、のすべてが喪失した状態であり、臼歯部の欠損のみの修復では埋入したインプラントも含め、口腔機能の維持が難しいことが直感的にわかる。臼歯欠損、上顎前歯の咬耗、歯の位置異常などから、インプラント、矯正、補綴を含むかなり複雑な咬合再構成が必要と診断した。このような症例の場合には、術前に埋入位置などの治療終了後のイメージを持つことが重要である。 今回は矯正のシミュレーションにおいてCTから得られるDICOM(Digital Imaging and COmmunication in Medicine)データと歯列形態情報から得られるSTL(Standard Triangu­lated Language)データを統合し、歯根の形態、歯槽骨や上顎洞などの解剖学形態を把握することの重要性およびインプラント埋入位置や骨増生範囲の推測の可能性について示してみたい。10

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