天野ドクターの歯周病絵本 バイオフィルム公国物語
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2 「バイオフィルム」という国の名を耳にしたことはあるでしょうか? 世界のどこにもない国ですが、世界のどこにでもある国です。それは何を隠そう、皆さんのお口のなかにあります。 私たちのお口のなかには数千億の細菌が暮らしています。彼らは歯や歯ぐき、舌、頬の粘膜などにいて、場所が変わると菌の種類も異なります。歯のまわりの細菌は、歯し垢こう、つまりプラークをすみかとしているのですが、21世紀になってから、プラークは「バイオフィルム」(生き物の膜)と呼ばれるようになりました。 バイオフィルムとは、多種多様な細菌たちが織り成すミクロの共同体です。そのなかには、皆さんにもおなじみのむし歯菌や歯周病菌がいます。彼らは手入れが行き届いているお口のなかではおとなしくしていますが、甘い物を食べ過ぎるとむし歯菌が悪さをはじめますし、歯ぐきから血が出るようになると歯周病菌が暴れはじめます。彼らがいい子でいるか、悪い子になるかは皆さんのお手入れ次第です。 細菌とひと口に言っても、いろいろな種類がいます。むし歯菌と歯周病菌は性格も好みも違います。築いている社会も違いますし、考えていることも、暮らしぶりも異なります。バイオフィルムのなかでさまざまな細菌が互いに協力し合い、食べて、増えて、戦うようすは、さながらひとつの国家のようです。バイオフィルムという“国”と、そこに暮らす“国民”細菌たちの生活を、その国を訪れた旅人の目を借りて見ていきましょう。はじめに

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