天野ドクターの歯周病絵本 バイオフィルム公国物語
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12巨大な生命体に吸い込まれた旅人。暗く湿った世界にただひとり。そこで彼が目にしたものとは?私は旅人。地図は持たない。目的地もない。光と風に誘われるまま道を進むのが私の流儀。ちはやぶる神に導かれ、不思議な世界ばかりを訪ねている。 ある時、突然のつむじ風にあおられからだが宙に浮き、巨大な生命体に吸い込まれた。この生命体の入口ではスー、ハーと音を立てて強風が波のように寄せては返している。これがつむじ風の正体だ。 風に連れて来られた場所は、ねっとりと湿った空気とやや不快なにおいが漂っていた。地面は赤くやわらかい。はるか遠く、地表の向こうには何本もの白い巨岩が整然と一列にそびえ立っている。 巨岩がどこか茶色っぽく見えるの意外なことに壁はやわらかい。太った人の腹のようにプヨンプヨンとしている。そのうえ、ババロアのジャムソースのようにねっとりと手にまとわりつく。 ブヨブヨした壁を登るのには骨が折れたが、ようやく城壁の上までたどり着いた。するとどうだろう。壁の内側にはたくさんの建物があり、大きな街が広がっているではないか。は、表面についた汚れのせいだ。汚れの色は、巨岩の根元に向かって濃くなっている。不快なにおいはそこからやってきているようだ。 巨岩の列が途切れるあたりを目指して歩いて行くと、やがていちばん端の巨岩の近くにたどり着いた。巨岩はまわりを深い峡谷に囲まれ、岩肌が切り立った断崖をなしている。 谷を用心深くのぞき込むと、巨岩の斜面にレンガ色をした城壁のようなものが見えた。どうやらその建造物は、峡谷の底に向かって延びている。まるで谷底に向かう城塞都市だ。 「古代ギリシャにはポリスと呼ばれる都市国家があった。もしかしたら、あれもそういった国の一部なのかもしれない」 城塞が何なのかを確かめずにいられなくなった私は、巨岩に飛び移るとレンガ色の城壁まで歩を進めた。旅人、公国を訪れる第話1

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