シリーズMIに基づく歯科臨床 vol.05 ペリオドントロジー&ペリオドンティクス 下巻
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ペリオドントロジー&ペリオドンティクス200section 7抗菌剤を利用した非外科的治療 抗菌剤を利用した抗微生物療法には,洗口,歯肉縁下(ポケット内)洗浄,抗生物質の局所投与,抗生物質の補助的全身投与,低用量ドキシサイクリンを用いた補助的歯周治療など多くが存在する.それぞれについて,以下に簡単に考察を行う.洗口剤洗口剤の単独使用としての効果 歯周疾患を予防または治療する目的で用いられる洗口剤は数多く存在する.そのなかで,SRPの補助療法として質の高い研究が行われているのは,クロルヘキシジンとポピドンヨードである.その他の薬剤として,酵素系薬剤,アレキシジン,塩化ベンザルコニウム,フェノールとエッセンシャルオイル,生薬,金属塩,酸化剤などを用いた数多くの洗口剤が存在するが,いずれも,歯肉炎やプラークの蓄積量の改善のみを示しており,アタッチメントレベルなどの臨床的指標の改善を示す,質の高いエビデンスは存在しない.また,洗口剤単体で歯周治療に効果を示す質の高い研究はなく,SRPなど機械的治療の補助療法として用いられることが多い.SRPの補助療法としての効果 SRPの補助療法としてクロルヘキシジンを洗口剤として用いた場合の効果を調べた,da Costa LFNPらのシステマティックレビューでは,8つのランダム化比較試験(以下,RCT)が採用され,メタアナリシスが行われた.その結果,プロービング値にわずかな差を認めるものの(12か月後で0.24mmの差),アタッチメントレベルについてはほとんど差を認めなかった27.ちなみに本邦では,歯周治療で用いられる濃度のクロルヘキシジンを洗口剤として用いることができない.また,クロルヘキシジンを繰り返し使用することで歯に着色が生じるため,使用する場合は事前に患者に十分な説明をする必要がある28. ポピドンヨード(0.1~10%)洗口の効果を調べたRCTが比較的多く行われている.Sahrmann Pらによるシステマティックレビューによると,SRP+ポピドンヨード洗口はSRP+プラセボに比較し,6か月後におけるプロービング値に統計学的有意差を認めた29.しかし,その数値は平均0.28mmであり,臨床的な意義があるとはいいにくい.また,この研究では,アタッチメントレベルについてメタアナリシスが行われていない.プロービング値の減少については,一貫してポピドンヨードを併用した群はプラセボ群より良好な結果を示しているが,アタッチメントレベルについては,プラセボ群のほうがよい結果となっている報告もあり,一貫しておらず,必ずしも効果があるとは結論づけられない. SRPの補助療法としての洗口剤の応用は,クロルヘキシジン,ポピドンヨードのエビデンスがあり,短期におけるプロービング値やアタッチメントレベルの改善を認める可能性がある.ただし,これらの効果の大きさは,臨床的にどこまで意義があるかわからない.また,メインテナンス期間に入った場合,その差を維持していない可能性もあり,洗口剤そのものの効果は,臨床的に大きな利点をもたらさないかもしれない.ただし,洗口剤の使用は患者自身が行うものであるため,プラセボ効果を期待し,患者のモチベーションとして用いるという意味では価値があるかもしれない.

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