シリーズMIに基づく歯科臨床 vol.05 ペリオドントロジー&ペリオドンティクス 下巻
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CHAPTER 9 非外科的歯周治療203抗生物質の補助的全身投与 SRP単独よりSRPと抗生物質の全身投与が有効であることは高いエビデンスで示されている47~49.Smileyらによるシステマティックレビューとメタアナリシスによると,SRPと同時に抗生物質を全身投与することにより,アタッチメントレベルの獲得が有意に多かったと報告している47.抗生物質の種類としては,アモキシシリンとメトロニダゾールの組み合わせ,メトロニダゾール単独,アジスロマイシン,クラリスロマイシン,モキシロフサシン,テトラサイクリンが研究されており,メトロニダゾール単独,テトラサイクリン以外は,SRP単独より有意にアタッチメントレベルの獲得が多い.Keestraらの報告では,慢性歯周炎より,侵襲性歯周炎で効果を認めた48, 49.しかし,これらの差は,0.5mmにも満たないものがほとんどであり,臨床的にどれほど意味があるかはわからない.また,1年以上経過すると抗生物質を用いた群との差が少なくなるという報告もあり48,長期メインテナンスで抗生物質を用いたほうがよい結果を得られるかはわかっていない. さらに,耐性菌の問題をよく考えなければならない.近年では,ESBL(基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生菌)やMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などに加えCRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)も出現し,既存の抗生物質の約半分が効かない時代になっている.新薬の開発が滞っているなか,耐性菌の出現を遅らせる方法は唯一,抗生物質を使わないことである.わずかなアタッチメントレベルの改善のために抗生物質を使用した結果,耐性菌が出現し,生死にかかわる病気の治療に必要な際に抗生物質が効かない,という事態を避けなければならない.低用量ドキシサイクリンを用いた補助的歯周治療 低用量のドキシサイクリンを長期間(数か月)服用することで,歯周組織の破壊を遅延あるいは抑制させようとする治療法が存在する.この項では,それについて簡単に考察を加えておきたい.宿主調節療法(host modulating therapy) 歯周病の発症は細菌と宿主のバランスが崩れることにより生じる.細菌からの抗原やLPSによる刺激に対し,生体は多形核白血球の遊走や抗体の産生などにより反応するが,細菌の侵襲に抵抗しきれず,サイトカインやマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP),破骨細胞の活性化が生じ,歯周組織が破壊される方向に向かう. 歯周治療の原則は細菌感染を除去することであるが,補助的療法としてMMPやサイトカインの発生を抑制することにより,歯周治療の治療成績を向上させようとする宿主調節療法(host modulating therapy)がある.その1つに,低用量ドキシサイクリン(20mg)の内服による治療方法がある.商品として「Periostat®」(日本未発売)がある.歯周治療開始と同時に経口投与(20mg/dayを3~9か月)することで,MMPなどのコラゲナーゼの活性を低下させる50.また,低用量にすることにより,抗菌薬としての効果を発現しないため,口腔内細菌への影響はない51.低用量ドキシサイクリンの治療効果 歯周病の患者に,SRPに補助的治療として低用量ドキシサイクリンを投与した群と,プラセボを投与した群を比較したRCTのメタアナリシスによると,プロービング値,アタッチメントレベルの両方において,統計学的有意差を認め,低用量ドキシサイクリンの有効性を示している52.ただし,これらの違いの多くは0.5mm未満であり,臨床的に有効といえるかわからない.また,HaajeeらのRCTによると,SRPの補助療法としての低用量ドキシサイクリンは,アジスロマイシン,メトロニダゾールの全身投与に比較し,ポケットの減少,アタッチメントレベル両方において,効果が低かったと報告している53.さらに,初期治療が終了してメインテナンス期間に入ると,その効果は減少する.Novakらの報告では,4回目のリコール時(初診から9か月後)の検査で,初診時のプロービング値が7mm以上の場合のみ統計学的有意差を認めたものの,アタッチメントレベルにおいては統計学的有意差を認めていない52, 54.低用量ドキシサイクリンの効果は,統計学的に差を認めるものの,臨床的な差は少なく,長期的にその差を維持できるかわからない.

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