インプラントの迷信と真実
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Chapter2 治療計画に関する迷信8前歯部のインプラント周囲軟組織の安定には唇側骨の厚みは最低2mm必要である迷必ずしもそれほどなくとも安定しているかもしれない真●歯肉レベルの安定には厚い唇側骨が必要? 近年、インプラントに対して高い審美的達成、すなわち天然歯と同様な硬・軟組織の再現が要求されるようになってきた。とりわけ、軟組織の安定は良好な審美性の維持には重要である。そうした中で、「十分な唇側骨の厚みは骨頂の高さを維持し、それは軟組織をサポートするため重要である」という考え方がよく知られている。 Sprayら1は3,000本近くのインプラントの前向き調査を行っている。それによると、頬側骨が1.8mm以上であれば垂直的な骨喪失は認められず、1.8mm未満であれば骨喪失が認められたため、インプラントの頬側骨が薄いと頬側骨の垂直的喪失が大きいと報告した。しかし、これは頬側の垂直的骨喪失を見たものであって、軟組織の審美性を観察したものではない。確かに軟組織は頬側骨に維持されてはいるものの、その骨の増減は軟組織のボリュームと「完全に」一致するという論拠はない。 また、Belserら2は最低1mm、Buserら3やGrunderら4は最低2mmという数値を勧めている。しかし、これらはいずれもデータに基づいた結論ではなく、彼らの個人的意見が反映されたものである。●唇側骨は術式によって保存量が異なる Merhebら5の2年にわたる観察研究によると、1回法でオープンフラップというプロトコルでは厚い頬側骨と薄い頬側骨に骨喪失の差が認められたが、フラップレスでは認められなかった(文献5)。プランニング時に、従来の基準(?)を遵守するあまり、GBRをオーバーコレクション気味に行うことが必要と考えられているかもしれないが、もしかすると、フラップレスなどで頬側骨を愛護的に扱えるのであれば、1mm以下の骨の厚みであっても、従来考えられていたより安定的に軟組織のレベルを維持できるかもしれない。●唇側骨の喪失は必ずしも審美的劣化を意味しない? 実際、Veltriら6はCBCTによる8.9年の観察で、Pink Esthetic Score(PES)と頬側骨の厚みには直接的には有意な相関は認められなかったとしている(文献6)。 もちろんリセッションのリスク軽減のため頬側骨の厚みはあったに越したことはないが、GBRを回避することは、外科処置のリスク減少、コストの削減、患者負担の減少、治療の短期化にもなる。したがって、待時埋入の際のプランニング時には、頬側骨の評価を多面的、総合的に考え、杓子定規に何でもGBRするのではなく、シンプルな術式を検討する余地はありそうである。エビデンスで検討すると…参考文献1.Spray JR, Black CG, Morris HF, Ochi S. The influence of bone thickness on facial marginal bone response:stage 1 placement through stage 2 uncovering. Ann Periodontol 2000;5(1):119-128.2.Belser UC, Bernard JP, Buser D. Implants in the esthetic zone. In:Lindhe J, Lang NP, Karring T eds. Clinical Periodontology and Implant Dentistry. Oxford:Black well Publishing Ltd, 2008;1146–1174.3.Buser D, Martin W, Belser UC. Optimizing esthetics for implant restorations in the anterior maxilla:anatomic and surgical con-siderations. Int J Oral Maxillofac Implants 2004;19 Suppl:43-61.4.Grunder U, Gracis S, Capelli M. Influence of the 3-D bone-to-implant relationship on esthetics. Int J Periodontics Restorative Dent 2005;25(2):113-119.5.Merheb J, Vercruyssen M, Coucke W, Beckers L, Teughels W, Quirynen M. The fate of buccal bone around dental implants. A 12-month postloading follow-up study. Clin Oral Implants Res 2017;28(1):103-108.6.Veltri M, Ekestubbe A, Abrahamsson I, Wennström JL. Three-Di-mensional buccal bone anatomy and aesthetic outcome of single dental implants replacing maxillary incisors. Clin Oral Implants Res 2016;27(8):956-963.52

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