口腔外科ハンドマニュアル’19
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上顎歯抜歯時の偶発症とその対処法VISUAL SEMINAR : BASIC DENTAL AND ORAL SURGERYChapter1-1 穿孔部の径が自然閉鎖が期待できる大きさの場合は,抜歯窩にコラーゲン塊を填入し頬側粘膜骨膜弁は元の位置に戻して縫合し(定位縫合),閉鎖術は行わない.自然閉鎖が期待できない大きさの場合は,頬側粘膜骨膜弁の骨膜に減張切開を加えて弁を延長して閉鎖手術を行う.この一連の処置は,上顎洞側壁への浸潤麻酔と上顎結節部の注射(上顎神経後上歯槽枝のブロック,図13)で上顎洞粘膜まで麻酔されるので,鎮静法なしの外来局所麻酔下で十分可能である.4)予防法 「上顎洞穿孔」の項で述べた観察ポイントに注意し,迷入のおそれがある場合には事前に説明しておく.ヘーベルで脱臼を試みる場合,歯根を押し込まないように,①頬側歯肉弁を剥離挙上する,②歯根膜腔に相当するグルーブを形成する(図14a),③複根歯は分岐部で分割して単根化する(図14b)などの補助的処置を加えて,ヘーベルを確実に歯根膜腔あるいは形成したグルーブに挿入し,歯根を根尖方向に押し込まないようにする.口腔上顎洞瘻孔 穿孔径が大きい場合や上顎洞炎(洞粘膜の肥厚や膿汁貯留)がある場合には,口腔上顎洞瘻孔を残遺しやすく,その場合瘻孔閉鎖術が必要となる.上顎洞炎が改善しない場合,従来は上顎洞根治術と瘻孔閉鎖術を同時に行っていたが,上顎洞の含気性と排泄性を確保することで上顎洞炎が改善することから,近年は上顎洞根治術は行わず内視鏡手術で自然孔を開大するのが一般的である.瘻孔閉鎖法としては頬側粘膜骨膜弁法,口蓋粘膜骨膜弁法,頬脂肪体有茎弁閉鎖法などがある(図15).各々の術式の詳細は紙幅の関係で他書に譲り,ポイントのみを述べる.①頬側粘膜骨膜弁法(図15a) もっとも多用される.瘻孔部分の上皮の切除,骨膜の減張切開による弁の十分な延長,マットレス縫合による確実な縫合,届きにくい場合は瘻孔部の頬側歯槽骨頂を少し削除して届きやすくする,などがポイントである.図13a,b 上顎結節注射法(上顎骨後壁部の局所麻酔).上顎神経後上歯槽枝をブロックし,上顎臼歯,上顎洞底部の洞粘膜を麻酔することができる.ab図14a ヘーベルを確実に挿入するためのグルーブを形成する.図14b 複根歯は歯根分割して抜歯する.ba45

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