子どもの口と顎の異常・病変 口の粘膜 編
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42CHAPTER 2 口のなかの粘膜の異常・病変原因口腔の発育過程において,歯冠の位置や形が決定されると,歯堤の役目は終わり分断され,歯肉の細胞によって吸収される.まれに歯堤をつくっていた上皮細胞が残り,真珠のような外観を呈する小腫瘤が形成されることがある.これは真珠のようにみえるため,上皮真珠とよばれている.上皮真珠は,歯肉嚢胞,歯堤嚢胞など多くの名称があり,とくに上顎口蓋正中部に生じたものはEpstein真珠という.何をみる?GP・小児歯科の鑑別診断歯が萌出する前の時期に,「白いぶつぶつができた」と保護者が心配して来院することがある.口腔内をみると直径1〜3 mm程度の小真珠様腫瘤が確認できる.新生児から生後3か月くらいまでに好発し,白色または黄白色を示す.顕著なものの発生頻度は2〜3%といわれている.上顎前歯部歯槽堤粘膜に多く,腫瘤は半球状で,半球が1つだけのこともあれば,いくつか連なっていることもある.自覚症状はなく1〜2週間で自然に消失する.先天性歯との鑑別を要することがあるが,注意して見ると簡単に鑑別できる.何をする?GP・小児歯科の対応ほとんどが自然に消失するので,経過観察で問題ないが,歯が萌出したら再度来院してもらい,確認してほしい.その際,う蝕予防についても指導するとよいだろう.また,真珠のようにみえるため,真珠のような異物が入っていると誤解する保護者もいるので,飲み込むなどの心配はないときちんと説明することが大切.長期間消失せずに残っている場合は,感染源になりうるとの報告もあるため,とくに大きく嚢胞状のものは注意する必要がある.八幡祥子(北海道医療大学歯学部口腔構造・機能発育学系小児歯科学分野)歯肉嚢胞(上皮真珠),歯堤嚢胞5参考文献1.平井五郎,他.歯の組織・発生学.東京:医歯薬出版,1995.2.甘利英一,武田泰典.小児の口腔軟組織疾患:診断アトラス.東京:医学情報社,1995.3.登内喜美江,他.新生児における上皮真珠の臨床的観察 第1報 出現頻度と経日変化.小児歯誌 1990;28(3):786-797.4.日本小児歯科学会・編.親と子の健やかな育ちに寄り添う 乳幼児の口と歯の健診ガイド.東京:医歯薬出版,2012.5.新谷誠康,他・編.小児歯科学 ベーシックテキスト.京都:永末書店,2016.6.福田道男,他.幼児の口蓋にみられた遺残性Epstein’ s pearlの感染症について.日口外誌 1976;22:221-224.図1 歯肉嚢胞(上皮真珠).上顎前歯部歯槽堤粘膜に白色の小真珠様腫瘤が認められる.*松下標先生(松下歯科医院)提供

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