インプラント治療の到達点
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に移行した。補綴治療約8年後(2012年)、₃に急性症状を発症して急患来院し、周囲炎と診断、外科手術を行った(図13)。₃にはインプラント体の3分の2に及ぶ2壁性骨欠損を認めたが、₃にMBLは認めなかった。 インプラント埋入時、₃部は骨幅が狭かったことからインプラントをやや舌側に埋入した。₃部は骨幅に問題はなかった(図14)。埋入後3ヵ月(図15)の時点でも、₃部の治癒状態が悪く、早期の歯肉裂開から感染した可能性があった。ここが1回目のターニングポイントと考える。また、オーバーデンチャーの₃部が数回破折してきた(図16)。これは右側での咀嚼癖から過重な咬合力が加わっている可能性が推察され、ここに2回目のターニングポイントがあると考える。本症例の₃部のデンタルX線写真の経過を示す(図17)。 近年のシステマティックレビューでは、周囲炎に対するどの治療法も現時点では科学的根拠に欠けていると結論付けられている36)。その理由としては、前述のとおり周囲炎は単一因子ではなく多因子で発症する可能性が高いため、症例ごとに主要因が異なることが強く考えられる。以上から、周囲炎の状況や患者の状態に合わせ、基本的な治療に加えて、今後は患者一人一人にあった最適なインプラント周囲炎治療が求められると推測される。本項で述べた多くの因子をよく考察し、最適な治療法を周囲炎罹患患者に提供することが、現時点でわれわれにできる最良の治療戦略であると考える。おわりに図13 インプラント補綴治療後約8年、₃に周囲炎を発症した。図14-a~d 右側(a、b)と左側(c、d)のインプラント埋入手術時の比較。abcdabc図17 デンタルX線写真における経過。(a)インプラント補綴後、 (b)周囲炎発症時、(c)再生療法術後6年経過時。症例2図15 インプラント埋入後3ヵ月。₃の治癒状態が悪かった。図16 オーバーデンチャーの₃部が複数回にわたり破折した。1516793-1 インプラント周囲炎に対するリスク因子の文献的探索と発症機序の考察

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