子どもの口腔機能を育む取り組み
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食べたい意欲を育む 保護者の悩みには、思った量を食べてくれない、時間がかかるなど、食欲の問題が多く挙げられます。食欲は「おいしかった」という経験があって、「また食べたい」という食への意欲を育てます。そのためには「お腹が空いた」という経験が先んじて必要です。 新宿区では、先駆的に食べ方を含めた歯科相談事業を1歳児、2歳児に行っていますが、食べ方で気になる点の有無は、1歳児の「甘味飲料摂取」「夜間授乳」、2歳児の「夜間飲料摂取」との間に関連がみられました。これらの問題は、歯科臨床ではう蝕予防として口腔衛生指導に特化してしまいがちですが、授乳や飲料による満腹感が食への意欲ともかかわり、食支援としても重要であることが示唆されています9)。 乳幼児期の口腔機能の発達には、何よりも本人の「食べたい」意欲を育てるという能動的な動機が大切です。そのためには、日常生活全般について把握し、お腹が空く環境づくりや生活習慣へのアドバイスが大切です。日常生活では、起床と就寝、お昼寝の時間が不規則になっていないか、授乳と食事の時間や量、甘味飲料を含め、おやつの内容や与え方に関連していないかを確認します。また、戸外での散歩や身体を使った遊びなどの運動量なども確認しながら、子どもたちが「おいしかった」と感じる経験の重要性に気づいてもらえるよう支援することが大切です。 子どもたちは、自分の手やお口を使い、新たな食材に挑戦し、失敗を繰り返しながらその使い方を学んでいきます。子どものようすをよく観察し、危険回避のお手伝いをしながら見守って、子どもの「食べたい」を育むことが大切です(図5)。噛まない食材歯の萌出状況丸のみの理由と対応「すべて」「やわらかいもの」「果物」「納豆」BBBB乳臼歯が未萌出のため。歯肉でつぶれる程度の食材にするが、舌の左右の動きがまだできない場合には、歯肉で噛むこともできないので、舌で押しつぶして飲み込める硬さに。「麺類」「肉・魚」DDDD乳臼歯が上下左右に1本ずつしか萌出していないので、ペラペラしているものや肉や魚介類の塊状の形態は処理できない。大人の指でつぶせる程度の食形態が望ましい。表2 噛まない食材と歯の萌出状況との関連新宿区における、食べ方に不安のある親子への相談事業において、保護者が「噛まない」と答えた食材と口腔内の状況には関連が見られたが、月齢差は認められなかった1)。口呼吸は口の姿勢を乱す すべての肺呼吸動物は鼻呼吸をしています。人間でも、成人と解剖学的な作りが異なる新生児では、口よりも鼻のほうが呼吸しやすくできていますが、首が座ると、発音が可能になると同時に口呼吸も可能になります。口呼吸は言葉を獲得した人間の特徴とも考えられます。しかし、呼吸の方法として口呼吸が続くと、顎顔面の成長不良など発育に強い影響を生じ、睡眠障害や歯列不正に結び付くと考えられます。 正しい呼吸を行うためには、「口の正しい姿勢」(次ページ図6a)が必須ですが、口で呼吸をすると、この正しい姿勢の3要素がすべて満たされない状態、つまり低位舌と口唇の閉鎖不全をきたします(次ページ 図6b)。図5 「食べたい」という子ども自身の気持ちを育む息育 (呼吸)Sokuiku口腔機能は全身とともに育まれる15

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