子どもの口腔機能を育む取り組み
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呼吸は上顎の成長に影響を与える 顎顔面の発達においても呼吸のしかたは大きく影響します。通常、上顎の側方への成長は、1日2,000回以上も行われる嚥下時に口蓋に押し付けられる舌の圧で促され(図7a)、U字形の歯列(図7b)が形成されます。しかし、習慣的に口呼吸を行う子どもたちでは、舌の位置が低く、この舌圧が生じないため(図8a)、上顎側方への成長は明らかに少なくなります(図8b、V字形の歯列)。また、口呼吸の子どもたちは乳児型嚥下*3を行うため、嚥下時に口輪筋や頬筋などの口腔周囲筋が緊張して上顎を外側方から圧迫することも、狭く高い口蓋につながります。この口蓋の状態は、鼻気道が狭いことを意味します。口呼吸によって正しい口の姿勢が妨げられると、なぜ他の口腔機能に影響するのか 正しい呼吸(鼻呼吸)を行い、正しい口の姿勢(図6a)を保つことによって顎顔面は望ましく発達していきます。顎顔面の正常な発達は、すなわち口腔容積の増大を意味します。口腔内が広がれば舌が活動できる領域も広がり、舌の運動は活発となり、食事、会話の能力は向上していきます。その結果、正しい咀嚼、嚥下、発音により舌が前後上下左右に運動し、正の循環が生じて口腔内はさらに広がっていきます。 しかし、狭窄した歯列弓ではスペースが不足して十分に舌が動けず、正しい食行動や発音を行うことができません。たとえば、習慣的に口呼吸を行う子どもたちでは、口唇を閉鎖せず食べるため、大臼歯ではなく小臼歯部を使って咀嚼する「クチャクチャがみ」を行い10)、乳児型嚥下を行います。また、「カラス」を「タ4ラス」など、発音が不明瞭であることが多く見られます。これは、舌の位置が低く、舌の筋力も低いため、舌を口蓋に接触させる必要のある「カ」「サ」「タ」行を発音する11)際にも舌が挙上できない機能性の構音障害である12)場合が多いです。そのため、正の循環が起こりにくく、口腔容口呼吸は口の姿勢を乱してしまうため、鼻呼吸を阻害する因子は早期に発見して除外する視点が必要である。呼吸と口の姿勢図6b 習慣的な口呼吸を行う子どもの口の姿勢 図6a 口の正しい姿勢口腔内がこのような状態にあると、正しい呼吸を行いやすい。常時口が開き(口唇の閉鎖不全)、口蓋に接地しているはずの舌が下方に下がり歯と接触している(低位舌)。*3 乳児型嚥下:咀嚼し終えた泥状の食塊や液体を飲み込む際には、喉頭の構造上、口腔内を密閉状態にして陰圧を高めて飲み込む必要がある。そのため正常者は嚥下時に口唇を閉じ、奥歯を噛んで下顎の位置を固定し、舌を口蓋に押し付けることで口腔内の陰圧を高めて嚥下する。一方、口呼吸を行う子どもたちは口唇を閉鎖せず奥歯を噛まず、舌を前方に突出させて歯に押し付けたり挟み込むことで口腔内の陰圧を高めて嚥下する。この時、口輪筋や頬筋などの口腔周囲筋には強い収縮が見られる。この嚥下のしかたを、正常な成人型嚥下と比較して「乳児型嚥下」という。溜め飲み、逆嚥下、舌突出癖、ターンスラストと表現されることもある。1鼻でゆっくりと息をする2口唇は軽く閉じる3舌はスポットに1口唇閉鎖が得られない2口で息をしているスポット3舌の位置は低い図12a図12b子どもの口腔機能を育む取り組み16

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