薬を飲んでいる患者への歯科治療
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▶▶ 抗血栓薬を服用している患者PT-INRが2〜3以下にならないようワルファリンの値がコントロールされている。心房細動のある高齢者(70歳以上)では、ワルファリンによる頭蓋内出血のリスクを回避するために、PT-INRは1.6〜2.6の範囲に調節することが推奨されている(表2-5)。4ワルファリンを中止して抜歯をするとどうなるのか? 冒頭で、ワルファリンを中止して抜歯するのは、現在非常識であると書いた。ワルファリンは血液をサラサラにするので、抜歯などの観血的処置後の出血が予想される。したがって後出血の防止のため、以前はワルファリンを5日程度中断して抜歯するのが常識であった。 しかし、1998年にWahlらは、抜歯のためにワルファリンを中断した493名542症例の抜歯により、約1%の5例で血栓・塞栓症を発症し、その8割(4例)が死亡していたとする衝撃的なレビュー論文を報告した7。さらに本邦においても、1985年、Oguchiらは、128症例中1例に脳梗塞による死亡例を報告している8。 このような事実から、「循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン」1で、「抜歯はワルファリンを原疾患に対する至適治療域にコントロールしたうえで、継続下での施行が望ましい」とされるに至った。5ワルファリン継続下で抜歯可能なPT-INRは? 科学的根拠に基づく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン2、3によれば「日本人において、PT-INRが3.0以下であれば、ワルファリン継続下においても後出血を含む重篤な合併症を生じない」としている。欧米の論文はPT-INR値が4.0(または3.5)までであれば普通抜歯は可能であるが、日本人の場合、前述のように、非弁膜症性心房細動で70歳以上の高齢者の場合、PT-INR値が1.6を切ると重篤な脳梗塞が増加し、2.6を超えると重篤な出血性合併症があるため、1.6〜2.6にコントロールされている。 したがって3.0を超えることはまずないと考えてよい。もし、PT-INR値が3.0を超える場合は、より慎重な出血管理が必要で、専門医療機関で観血的処置を行うべきである。6ワルファリン服用患者は、抜歯後出血はどのぐらいで止血するか? 抜歯後の止血に要する時間は、出血性素因以外に、局所の状態や止血方法などにも影響される。 健常者の場合、普通抜歯であれば通常7分程度で止血するが、ワルファリン服用患者では、特別な局所止血を行わない場合、止血するまでに2〜12時間、平均5.9時間を要するとされる。 したがって後述するように、局所止血を十分に行う必要がある。抜歯時の圧迫止血時間に関しては、通常よりも長めに、30分程度ガーゼにて圧迫止血すべきである。2DOAC服用患者の抜歯 近年、直接経口抗凝固薬(DOAC)が広く臨床で使用されている。DOACに関してはPT-INRのような術後出血を予測できる検査はなく、現状ではデータが不足している。しかし、2015年改訂の科学的根拠に基づく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン改訂版3で、はじめてNOAC(DOACの以前に使われていた用語。非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬:Non-vitamin K antagonist oral anticoagulantを意味する)内服患者の抜歯の周表2-5 PT-INRのコントロール(文献6より引用・改変)図2-4 簡易式PT-INR測定機器コアグチェック®XS(ロシュ・ダイアグノスティックス社)。推奨治療域:PT-INR 1.6〜2.8血栓塞栓症のリスクの高い症例: PT-INR 2.2〜2.8リスクの比較的高くない症例、出血のリスクの高い高齢者: PT-INR 1.6〜2.2人工弁置換術、弁形成術: PT-INR 2.0〜3.0心房細動(70歳以上の高齢者):PT-INR 1.6〜2.6321章2章3章4章5章6章7章8章9章

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