矯正YEARBOOK2019
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図1a, b a:乳歯列期反対咬合の1例,b:混合歯列期反対咬合の1例.図1a図1b012臨床家のための矯正YEARBOOK 2019はじめに 反対咬合は複数歯の上・下顎前歯被蓋関係が唇舌的に逆である咬合型をいう1.その形成には顎顔面頭蓋の遺伝的・病理的問題を含めてさまざまな問題がかかわる2.ここでは臨床で一般に遭遇する健常者の乳歯列期および混合歯列期に発現する反対咬合(図1)について,その発症にかかわる機能系および骨格系の重要と思われる問題の背景と,それに対する治療の考え方について概説する.なお,症例写真は東北大学大学院歯学研究科顎口腔矯正学分野所有の外来資料を,許可を得て使用した.機能系の問題1)下顎運動様式(1)乳歯列期反対咬合 乳歯列期反対咬合の発症にかかわる機能的な背景の1つは乳児の下顎運動様式である.乳児の下顎運動様式は前後運動で,母乳吸啜のためのポンプ作業を行う(図2)3. 上・下顎乳切歯が萌出し対咬関係に入る時期に機能的に前方に出された下顎によって下顎乳切歯がしばしば上顎乳切歯の唇側に入り,一過性の反対咬合が形成される.その状態が習慣的になされると,前後運動による切歯切端摩耗や歯軸変化を来し,下顎の成長とあいまって反対咬合が常態化する.しかし,下顎運動様式が食物の粉砕・咀嚼のために上下運動になり,かつ上顎永久切歯はやや唇側傾斜して乳切歯の唇側から萌出することによって,このような反対咬合は自然治癒することが多い(図3)4.  機能性の反対咬合では,下顎頭が下顎窩で機能的に前方位をとることによって成長が賦活され5,骨格性反対咬合を惹起する可能性があり,そのため,早期治療が必要であるとする考え方がなされる.しかし,そのエビデンスは示されていない.機能性反対咬合の治療は基本的に経過観察にとどめてよい. 一方,下顎乳切歯が下唇に押されて舌側に傾斜し切歯間に空隙がない反対咬合は,上顎劣成長または[総論]Anterior Reversed Occlusion Emerged During Growth―Its Etiological Background and Treatment StrategyHideo Mitani東北大学名誉教授:元・東北大学大学院歯学研究科口腔保健発育学講座顎口腔矯正学分野教授連絡先:〒980‐0874 宮城県仙台市青葉区角五郎1‐3‐5三谷英夫成長期の反対咬合その発症の背景と治療の考え方特集 成長期の反対咬合を考える

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