ジャパニーズエステティックデンティストリー2020
2/6

Minimally invasive approaches to tooth erosionはじめに 昨今、接着歯学および歯冠色修復材料の進歩により、酸蝕歯に対するアプローチが世界各国から多く発表されるようになってきている。酸蝕は、エナメル質ではpH5.5を超える酸性の物質に触れた場合に、象牙質ではpH6.0を超えた物質に触れた場合に生じるもので、口腔内への酸の供給源としては、砂糖含有飲料、柑橘類、サラダドレッシング、酢、ワイン、アスピリン、鉄剤、ビタミンC製剤などが挙げられる。また、食品以外の環境的な原因としては、バッテリー液を扱う工場やめっき工場など、そしてプロのスイミング選手の間で酸への曝露による酸蝕が生じている。また、拒食症患者の頻回にわたる嘔吐や、胃酸の逆流といった内因的な要素も挙げられる。 こうした中、とくに臼歯部の酸蝕では、部分的なピット状Case Presentation症例の概要 患者は2018年初診、51歳男性。「笑ったときに歯が見えない」「歯が全体的に減っていて、噛みづらい」ことを主訴に来院された。Fig 1に、初診時の口腔内所見を示す。 本症例の場合は咬合面や切端にシャープなエッジがみられなかったため、ブラキシズムやクレンチングによるものではなく、習慣的な酸性飲料や果物の摂取などによる酸蝕であると推測できた。こういった、歯の摩耗を呈する場合の病因についてTable 1に示すが、これらは大別すると物理的な原因と化学的な原因の2種に分けることができ、前者には歯と歯の接触による咬耗症(Attrition)および歯と歯以外の材料の接触による摩耗症(Abrasion)が、後者には酸による侵食を受けたことで生じる酸蝕(Erosion)および摩耗症を生じたの欠損にはコンポジットレジン(CR)修復、より広範囲な歯質欠損に対してはメタルアンレーやクラウンによる修復が行われてきたが、昨今では冒頭で述べた各種材料の進化、中でもプレスセラミックの進化により、歯質を可及的に温存したまま自然感の高いMinimal Invasive(MI)な歯冠色修復が行えるようになっている。かねてから、前歯部酸蝕症例にはポーセレンラミネートベニアが用いられて長い実績をもつが、臼歯部咬合面にも積極的にセラミック材料を応用できるようになったことは近年のトピックといえよう。そこで、本年の本別冊巻頭論文としては、筆者が経験した酸蝕症例に対し、二ケイ酸リチウム材料とCR直接修復を用い、MIと審美・機能の両立を図った症例を供覧させていただく。部分が脱灰したPerimonolysisが含まれる。この患者では、30年間にわたり大量のコーラを飲んでいたことが問診から判明した。 顔貌写真をFig 2に示すが、主訴のとおり年齢の割にスマイル時の歯の露出が少ないことが明らかである。Fig 3に示すパノラマエックス線写真からは、すべての歯が生活歯であり、歯周病の兆候もみられず、酸蝕歯への修復治療のみで対応可能と判断した。治療の流れ まず、CRとCOでの咬合採得をそれぞれ行った上で、模型を咬合器付着した。ここにおいて必要となる咬合高径の設定であるが、まず上下顎の6前歯、合計12歯の形態を回復9THE JAPANESE JOURNAL OF ESTHETIC DENTISTRYISSUE 2020THE JAPANESE JOURNAL OF ESTHETIC DENTISTRYISSUE 20209

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る