歯科衛生士のための21世紀のぺリオドントロジーダイジェスト増補改訂版
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56令和最大の話題になる!?ジンジパインってなんだ 2019年の1 月に、歯科界を揺るがす科学論文が発表されました。タイトルは「Porphyromonas gingivalis in Alzheimer's disease brains:Evidence for disease causation and treatment with small-molecule inhibitors(アルツハイマー病の脳内に存在するP. gingivalis :病因である証拠と阻害剤を用いた治療)」23)。内容は、アルツハイマー病の原因は脳内に侵入したP. gingivalis であり、P. gingivalisが分泌するタンパク分解酵素であるジンジパイン(gingipain)が脳の神経細胞を変性させて認知症を発症させるというものでした。さらに、新開発のジンジパイン阻害剤によりアルツハイマー病が治療できる可能性も示されていました。掲載誌は『Science Advances』という一流ジャーナル。今回の仮説が正しいとすると、医学常識がひっくり返るといってもいい話なのです。 歯周病と認知症の関係はこれまでも指摘されていましたが、今回の論文はもっと説得力があり、P. gingivalis が認知症に関係している可能性は高まりました。もっとも、多量のP. gingivalis が脳内に移行するのは重度の歯周炎患者さんだけと考えられるので、皆が皆P. gingivalis が原因で認知症になるわけではないでしょう。ですが、今後の展開を注視すべき話題です。 ひょっとすると令和最大の話題になるかもしれないジンジパイン。しかし、P. gingivalis は知っていても、ジンジパインを知っている歯科衛生士さんはあまりいないと思います。ジンジパインを知れば、歯周病がもっとわかりやすくなります。P. gingivalisのタンパク分解酵素・ジンジパイン8ジンジパインはP. gingivalisの病原因子のひとつ 800種とも言われる口腔細菌の中で、なぜP. gingivalisがもっとも病原性の高い歯周病菌なのか。それは、強力な病原因子をたくさんもっているからです(図3-16)。病原因子は細菌の武器そのもの。P. gingivalis ほど強力な武器をもっている口腔細菌は他にはいません。 P. gingivalis の病原因子の中で、特に強力なものは線毛とジンジパインです。線毛はバイオフィルムを形成したり、歯周組織に侵入したりするために必要な付着因子(人間でいえば手足)です。そしてジンジパインは歯周組織やバイオフィルムのタンパク質を分解する酵素です。また、ジンジパインは付着因子としてもはたらきます。 P. gingivalis の病原性を語るうえで、この強力なタンパク分解能は無視できません。したがってここでは、タンパク分解酵素としてのジンジパインのはたらきを詳しく説明します。図3-16 P. gingivalis の病原因子線毛(付着因子)P. gingivalis の手足としてはたらく。バイオフィルムを形成したり、歯周組織に侵入したりする。ジンジパイン(タンパク分解酵素)歯周組織やバイオフィルムのタンパク質を強力に分解したり、歯周組織に侵入したりする。リポ多糖(LPS)歯周組織細胞の炎症性サイトカインの産生を促進させ、歯周組織に過剰な免疫反応、炎症反応を引き起こし、歯周組織を破壊する。莢きょうまく膜P. gingivalis を鎧のように覆う皮膜状の構造物。菌を守るとともに、炎症反応を引き起こす。赤血球凝集素赤血球を凝集し沈殿させ、ジンジパインによる赤血球の分解を助ける。血小板凝集素止血作用をもつ血小板を凝集させ、歯周ポケットの止血を妨げる。加水分解酵素タンパク質やペプチドを分解する(ジンジパインより活性は弱い)。

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