YB2020 スタッフにも読ませたい 人生100年時代の予防・メインテナンス
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 「人生100年時代」と聞くと高齢者に対する対応を想起してしまう.もちろん,診療室の特性や地域性にもよるだろうが,現状,私たちの診療室を100歳に近い患者が訪れることはそれほど多いとは言えないのではなかろうか? そのせいか「人生100年時代」と言われても今ひとつピンとこない.しかし,「人生100年時代の歯科医療」を「高齢者歯科の比重が高まった歯科医療」と解釈するのは安易に過ぎる. 図1,2は,2007年生まれの7歳児の顔貌と口腔内の写真である.ある予測1によれば,2007年生まれの日本人の半数は107歳に到達するという.つまり,歯科医療界は,この子どもたちの半数に対して100年以上にわたり口腔内の管理を続けていかなければならないことになる.「人生100年時代の歯科医療」とは,100歳以上の人びとに対する歯科医療ではなく,100年以上生きるであろう人びとに対する継続的な歯科医療であり,それはすでに始まっているのである. 歯の喪失理由の大多数はう蝕,歯周病に起因するものである.う蝕も歯周病も,基本的には不可逆的な組織破壊を引き起こす疾患である.そして,その組織破壊は生涯を通じて蓄積する.だからこそ,これらの疾患に対しては,組織破壊を起こさせないこと,できるだけ早期に組織破壊を発見して,さらなる破壊を防ぎ続けることが重要なのである.つまりメインテナンスが必須なのである.メインテナンスを前提とした歯科医療においては,規格化した資料(口腔内写真やエックス線写真など)を定期的に採得し,口腔内の状態を時間軸のなかで客観的に把握していくことが求められる.また,歯を残すという立場に立てば,インプラントや可撤性義歯の管理も避けて通れない. う蝕,歯周病に対するメインテナンスについては,すでにノウハウも確立し,成果についても臨床疫学データから確認されてきている.また,日本人の口腔内の状況の改善も相まって,私たちの目は,口腔機能にも向きつつある.この観点がなければ,口腔のQOLを確立,維持することは不可能である.図1,2を見ても,7歳の時点ですでに機能発育のズレをうかがわせる子どもも見られる.また,長年にわたってメインテナンスを継続している成人患者においては,口腔機能の低下が見られるようになったり,全身疾患や体力の低下などでメインテナンス受診が困難になるケースも珍しくない.このように考えると,歯を残すためのう蝕,歯周病に対する適切なマネジメントは必須であるが,それだけでは不十分であることに気づく. 1人の患者の一生のすべてを,1人の歯科医療従事者が見届けることは不可能である.歯科医療界のなかで複数の専門家がリレーをしながら,100年以上にわたる息の長い口腔管理を行っていかなければならないのである.本書では,1人でも多くの人びとが生涯にわたって口腔の健康とQOLを維持できるように,各ライフステージを担当する歯科医療従事者が何をすべきなのかをまとめた.「人生100年時代」に求められる視野を広く持ったメインテナンスの道標となれば幸いである.2019年11月伊藤 中「人生100年時代の歯科医療」とは

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