ビジュアル歯科臨床解剖
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序文「見えないもの・知らないものはだれだって怖い,まず知ることから始めよう」 臨床解剖学とは何か,一言でいうと,臨床にかかわる解剖学である.少し噛み砕いて,解剖学を臨床医目線で見たもの,というとイメージしやすいかもしれない.臨床医としてキャリアを積み始め,その後,解剖学という道にのめり込んだ筆者にとって,臨床医と一緒に仕事をすることが呼吸をするように当たり前で,子どものように毎日ワクワクしながら職場に向かっている.臨床医に「昨日は何か手術で問題はなかった?」と聞くと,「こういった珍しいケースがあってね」とか「こんな合併症って解剖学の視点から理解できる?」という返事や質問が返ってくる.そう,新しい研究テーマがそこからすでに始まっているのだ. そんな筆者にとって大きな転機となったのが「舌神経」との出会いである.この舌神経,なかなか一筋縄ではいかない.解剖学的に皮質骨からの距離を調べているものや,臨床での損傷例などは論文として多く見るが,具体的に何をどう気をつけたら良いか,そんなことを書いてある教科書も論文もない.舌神経が舌の動きに合わせて動くことすら記載されていないことがほとんどである.こうしていつの間にか,歯科医師の間で舌神経は「よくわからない困った存在」になっていた.結局「舌神経損傷に気をつけましょう」という一言で終わることになる.口腔外科医はちょっとした処置で口腔底に切開を加えなければいけないことが多々ある.インプラントや歯周外科,智歯抜歯でも下顎舌側の骨膜は頻繁に扱われる.どうにかして損傷のリスクを解剖の知識で最小限にできないのだろうか? 「ここは大丈夫,ここは安全」ということが経験的にわかっていても,具体的に他人に説明することは容易ではない.なぜならば「ここに舌神経が走っている」「ここに切開をしたらリスクが高い」「このランドマークに気をつけると安全」などという具体的で実践的なエビデンスがこれまで確立されていなかったからだ. さて,このような経緯で,筆者は自分の解剖の経験を実践的な「エビデンス」という形にする必要性を実感した.臨床医にとってわかりやすい具体的な,そして実践的な数値やランドマークを同定し,

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